第三十六回北日本放射線腫瘍学研究会 主題 「IMRT」,13-15

1) IMRTの初期臨床経験

 

司会 岩手県立中央病院
   関 澤 玄一郎

東北大学・放射線治療科
   藤 本 圭 介・高 井 良 尋
   根 本 建 二・小 川 芳 弘
   松 下 晴 雄・武 田   賢
   高 橋 ちあき・野 宮 琢 磨
   後 藤 卓 美・坂谷内   徹
   山 田 章 吾
同 放射線部
   三津谷 正 俊
 

1. はじめに
 当院において2000年よりIMRT (Intensity Modulated Radiation Therapy)の臨床応用を開始した。これまでIMRTによる放射線治療を頭頸部腫瘍(原発性および再発性)の5例に施行しており,1) IMRTの実際と,2) 従来の固定多門照射と比較したIMRTの有用性及び問題点につき検討している項目につき述べる。


2. IMRTの概念と実際
 IMRTとは,ある一方向からの照射野内において種々の方法により照射線量に強弱をつけ(強度変調),強度の不均一なビームを多方向から足し合わせることにより,従来の方法では構成不可能であった任意の線量分布を得るための方法を指す。
 線量分布算出のための方法としては,forward algorithm (planning)(通常のnon-IMRTの治療計画と同様な手順で進め,trial and errorで最適解に近づける)及びinverse algorithm (planning)(ビームの入射方向とリスク臓器への許容線量,保護の優先順位などを与え,それらを満たす解を求める方法)がある。算出された線量分布を実現させるための照射技術は,現時点ではstep (stop) and shoot technique(マルチリーフコリメーター(以下MLC)で作成される幾つかの亜照射を同一方向から足し合わせる方法)とsliding window technique(ビームがオンになっている間に,移動速度を変えつつMLCを連続的に動かして不均一な強度分布を得る)が実用化されている。当院においては,IMRTの施行には治療計画装置として米国Varian社CadPlan® Version R.6.1.5〜6.2.7(マイナーバージョンアップを経過)とIMRTソフトHeliosを用い,作成された治療計画に基づきライナック(Varian社CL23EX)にて照射を行っている。このシステムはinverse algorithm (planning)及びsliding window techniqueの両者に対応しており,以下に述べる症例においてもこれらの手法を使用した。


3. 当院において経験したIMRT症例と,従来の固定多門照射との比較 ─ 有用性及び問題点の検討
 1) 症例と比較方法
 2000年7月より2001年5月までに当院にてIMRTを5例に施行しており,いずれも頭頸部腫瘍で,内訳は下記の如くである。
  年齢:25歳〜70歳
  性別:男性3例  女性2例
  疾患:上咽頭癌(初発)2例
     上咽頭癌(再発;硬膜浸潤)2例
     上顎癌(局所再発)1例
 4例は,1〜4門の固定(多門)照射後の追加として,1例(上顎癌)は始めより照射野を再発部位に限局させ,IMRTを施行した。
 これらの症例に関して,治療修了後に以下の如くシミュレーションし,IMRTの有用性について検討した。
 IMRTによる治療指針はおよそ下記の通りである。
 a) Clinical Target Volume (CTV)及びPlanning Target Volume (PTV)の設定:
   CTVは,上咽頭癌初発例では,腫瘍+深頸リンパ節領域,その他では腫瘍部位のみとした。尚,IMRTにおいては,通常の治療計画と異なり,照射野作成の段階においてマージンを設定するステップがなく,標的の輪郭を囲む際に予めマージンを含んだものとした。
 c) 照射及び保護の優先度:照射目的によって異なる。
   上咽頭癌根治照射では脊髄保護≒CTVへの照射
                >健側耳下腺保護
   再発例姑息照射ではCTV≒眼球・視神経の保護
                ≧周囲健常臓器(脳)保護
 他方,各症例について,CTVをIMRTプランと同一とした二(三)次元固定多門照射による治療計画を作成した(以下,non-IMRTプランと記載する)。non-IMRTプランによる治療指針はおよそ下記の通りとした。
 a) 照射方法:二(三)次元固定多門照射
 b) CTVの設定:IMRTによる治療計画と同一
 c) PTVをCTV+0.5 cmとして,MLCにより照射野を作成
 d) 優先度の設定:
   上咽頭癌初発例では,脊髄保護>CTVへの照射
                >健側耳下腺の保護
 その他の症例では,眼球・視神経の保護>CTVへの照射。
 尚,比較目的で,1例においては脊髄の保護について考慮せず,CTVへの照射を最優先とする案も作成した。
 両者のプランにおいて,CTVとリスク臓器への照射線量につき,各々dose-volume histogram(以下DVH)を算出し,求められたDVHにて,最大・最小・平均線量,標準偏差を比較した。
 更に,上咽頭癌初発例のうち1例に対し,ターゲット内での線量分布を評価する目的で,下記の設定とした検討を追加した。
 a) CTVの設定(Varian社Somavision®上で実行)。
   PTVについては,PTV=CTV+0.3 cmとして予め自動入力。
 b) IMRTの線量分布を上記PTVを用いて作成。ここで,CTVの最小線量が90%以上となるように試みた。
 2) 結果
 1例につき結果を示す。上咽頭癌T3 N1 M0症例,全頸部+両側鎖骨上窩へ40 Gy照射後IMRTにて30 Gy照射。CTVにて最小線量11.3 Gy・平均線量30.6 Gy,健側耳下腺にて最大線量13.5 Gy・平均線量7.8 Gy。脊髄への線量を許容範囲内にしつつ,DVH上CTVに対しては固定多門照射と比較して良好な分布を得,他方リスク臓器に対する線量は固定多門照射よりも良好に抑制されていた。しかし,CTV内で線量が90%未満となる部位の存在を認めた。以上他の4例も同様であった。
 上記の上咽頭癌症例については,前述の追加検討を加えており,次の結果を得た。CTVにて最小線量27.6 Gy・平均線量30.3 Gy,PTVにて最小線量25.0 Gy・平均線量30.1 Gy。他方,脊髄において最大線量18.8 Gy・平均線量10.7 Gy,健側耳下腺にて最大線量15.5 Gy・平均線量12.2 Gy。
 3) 結論
 DVH解析より,IMRTの有用性とその一方でCTV内での線量不足部位の発生の可能性があることが示された。また標的内の線量分布の改善に努めた場合,逆に十分な正常組織の保護が不可能になる場合もあり得ることが示唆された。線量不足部位発生の回避と十分な正常組織の保護を両立させる方法には各種の可能性が考えられるが,今後の検討が必要である。