10.　超音波検査を用いた内頸静脈弁の描出可否の割合と男女差|Visualization Rate of Internal Jugular Vein Valves Using Ultrasonography and Sex Differences

一般演題I

10.　超音波検査を用いた内頸静脈弁の描出可否の割合と男女差

加藤　智一^1,2，三宅　和恵²，杉村　航大²，伊藤　英恵¹，小川　洋二郎^1,2，岩﨑　賢一^1,2

¹日本大学医学部社会医学系衛生学分野
²日本大学大学院医学研究科宇宙航空環境医学

Visualization Rate of Internal Jugular Vein Valves Using Ultrasonography and Sex Differences

Tomokazu Kato^1,2, Kazue Miyake², Kodai Sugimura², Hanae Ito¹, Yojiro Ogawa^1,2,
Ken-ichi Iwasaki^1,2

¹Department of Social Medicine, Division of Hygiene, Nihon University School of Medicine
²erospace and Environmental Medicine, Nihon University Graduate School

【背景】キリンの頸静脈には弁が複数あり，これは飲水時など，頭部が心臓より下がる際に脳への静脈血逆流を防ぐためだと言われている。ヒトにおいても，内頸静脈に弁が存在することが知られており，宇宙飛行や頭低位に伴う体液頭側シフト発生時に，同様の機能を果たす可能性が考えられる。超音波検査を用いた海外の研究によると，内頸静脈弁を両側描出できる者の割合は38-60%，片側のみ描出できる者は26-46%（右側優位），両側とも描出できない者は13-16%と報告されている。これらの結果のバラつきは，超音波検査による内頸静脈弁の描出可否には，個人差があることを示唆する。特に，性別は重要な因子と考えられるが，内頸静脈弁の描出可否の割合について，男女で比較した研究はない。
　【目的】本研究は，超音波検査による内頸静脈弁の描出可否の割合とその男女差を明らかにすることを目的とした。
　【方法】健康成人50名（男性25名，女性25名，平均年齢24±7歳）を対象に調査した。まず，研究参加者を水平仰臥位にし，超音波検査機器のリニアプローブを用いてBモードで内頸静脈を同定した後，内頸静脈の心臓側基部（頸静脈下球）を中心に内頸静脈弁を検索した。この手順を左右の内頸静脈に対して同様に行った。内頸静脈弁の描出可否の結果から，研究参加者を「両側描出できる者」，「片側のみ描出できる者」，「両側描出できない者」の3群に分類し，母集団に対する各群の割合を算出した。さらに，描出可否と性別との関連をフィッシャー正確検定で分析した。
　【結果】内頸静脈弁を「両側描出できる者」は27名（54%），「片側のみ描出できる者」は16名（32%），「両側描出できない者」は7名（14%）だった。「片側のみ描出できる者」のうち，右側のみ描出できた者が11名，左側のみ描出できた者は5名だった。内頸静脈弁の描出可否と性別との間に統計学的に有意な関連は認めなかった（P = 0.73）。
　【考察】本研究では，超音波検査による内頸静脈弁の描出可否の割合とその男女差について調査した。その結果，内頸静脈弁の描出可否の割合は，海外の先行研究の報告範囲内であった。また，右側の内頸静脈弁の方が描出できる割合が高い点も先行研究に一致した。一方，本研究によって，描出可否において，男女差を認めないことが示唆された。このことから，性別の違いは，超音波検査による内頸静脈弁の描出可否にあまり影響しないことが考えられる。内頸静脈弁の機能は，SANS（宇宙飛行関連神経眼症候群）や内頸静脈血栓症など，宇宙飛行に伴う様々な病態に関連している可能性が考えられる。今後の研究では，超音波検査で内頸静脈弁を描出できる者を対象に，頭低位負荷を用いて，体液頭側シフト発生時の内頸静脈弁の機能について検討していく予定である。（本研究はJSPS科研費22K15194の助成を受けたものである）