宇宙航空環境医学 Vol. 62, No. 1, 21 2025

一般演題I

5. 宇宙環境下でSp7を介した骨細胞成熟抑制によって生じるSOSTの発現低下と低酸素応答

本城 万由佳1,2,3,長谷川 嵩矩3,村谷 匡史4,暮地本 宙己1

1慈恵大学細胞生理学講座 宇宙航空医学研究室
2東京医科歯科大学医学部医学科4年
3東京医科歯科大学 M&D データサイエンスセンター
4筑波大学医学医療系 ゲノム生物学教室

Early osteocyte maturation regulated by Sp7 were interrupted in spaceflight consequently affect the SOST expression and hypoxic response

Mayuka Honjo1,2, Takanori Hasegawa2, Masafumi Muratani3, Hiroki Bochimoto1

1Division of Aerospace Medicine, Department of Cell Physiology, The Jikei University School of Medicine
2M&D Data Science Center, Institute of Science Tokyo
3Department of Genome Biology, Institute of Medicine, University of Tsukuba

宇宙環境での骨代謝機序の解明は,宇宙開発において最も重要な課題のうちの一つである。今回我々は骨リモデリングの司令塔である骨細胞の重要な機能・分化マーカーSOSTの宇宙環境における機能変化に焦点を当て,培養骨細胞株Ocy454を宇宙環境と地上で2, 4, 6日間培養したときのマイクロアレイデータ(OSD-324)とOcy454由来のSOST高発現/低発現骨細胞の遺伝子発現データ(GSE102958)を統合的に解析し,宇宙環境での培養骨細胞のSOST関連遺伝子発現の検討を行った。
 宇宙環境での培養骨細胞と発現に有意差の見られた遺伝子は,SOST高発現骨細胞で617個検出されたのに対し,SOST低発現骨細胞との間では77個検出されたことから,宇宙環境での培養骨細胞はSOSTの発現に加えて遺伝子発現特性全体においても,SOST高発現骨細胞に対して相対的に成熟度の低い骨細胞であるSOST低発現骨細胞と類似した性質を持つことが示された。この原因の1つとして,骨系統細胞の成熟に関わるエピジェネティックな変化であるH3K27me3の亢進や骨細胞成熟に関わる重要な転写因子であるSp7下流遺伝子発現低下による宇宙環境下での骨細胞の成熟抑制が示唆された。
 さらに宇宙および地上の実験群における遺伝子発現の経時的変化を個別に比較検討した結果,HIF1-aを介した低酸素応答が地上は低下した一方で宇宙環境での培養群では高く維持されていた。これに加え,宇宙環境での培養骨細胞ではHIF-1a下流の代謝経路の亢進も生じていたことから,宇宙環境での培養骨細胞におけるHIF-1a経路の活性の遷延とそれに伴う代謝の亢進が示唆された。
 以上の結果から本研究では,宇宙環境での培養骨細胞ではSp7下流遺伝子の発現低下による骨細胞の成熟抑制がSOST発現低下やHIF-1aを介した低酸素応答の遷延による代謝の亢進を引き起こし,骨代謝を変化させる可能性が示された。