宇宙航空環境医学 Vol. 62, No. 1, 18 2025
一般演題I
2. 模擬微小重力下のヒト臍帯静脈内皮細胞のプロスタグランジントランスポーターSLCO2A1に関わる機能形態の変化
石川 桜妃1,中山 大河1,瀧澤 玲央1,3,齋藤 英希1,2,南沢 享1,暮地本 宙己1
1東京慈恵会医科大学細胞生理学講座宇宙航空医学研究室
2Astraporta株式会社
3牛久愛和総合病院血管内治療科
The influences on morphic characteristics and molecular localization related to prostaglandin transporter SLCO2A1 in human umbilical vein endothelial cells caused by simulated microgravity
Saki Ishikawa1, Taiga Nakayama1, Reo Takizawa1,3, Hideki Saito1,2, Susumu Minamisawa1, Hiroki Bochimoto1
1Division of Aerospace Medicine, Department of Cell Physiology, The Jikei University School of Medicine
2Astraporta, Inc.
3Ushiku Aiwa General Hospital
宇宙空間では,血管形成異常が生じて,宇宙飛行関連神経眼症候群など重篤な病態を惹起する可能性があることが指摘されており,その原因可能性の一つとして血管新生に伴う血管内皮細胞の遊走調節障害が考えられている。プロスタグランジン(PG)E2を細胞内に取り込むPGトランスポーターSLCO2A1は,血管内皮細胞では遊走能調節に関わるが,これまでに微小重力下の細胞内においてSLCO2A1の遺伝子発現が変化する可能性が報告されている。そこで,今回私たちは,模擬微小重力下におけるヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)モデルを用いた検討を実施した。
3Dクリノスタット(GRAVITE®)を用いて作出した模擬微小重力(SMG)条件でHUVECを48時間培養した。一部は事前にスクラッチして実験後スクラッチ面積を測定した。また2%glutaraldehyde固定後,脱水・凍結乾燥・オスミウムコーティングを施して電界放出型走査電子顕微鏡で観察した。加えて,4%paraformaldehyde固定後,SLCO2A1,Caveolin-1(カベオラマーカー),GM130(ゴルジ装置マーカー)の免疫蛍光染色を行いレーザー型共焦点顕微鏡で観察した。さらにTrizol処理後,Total RNAを抽出し,slco2a1及びslco2a1と拮抗的に機能するabcc4の遺伝子発現についてq-PCRを用いて検討した。
スクラッチアッセイによるSMGおよび対照条件の間の比較では,SMG条件でスクラッチ面積がより縮小する傾向が見られ,細胞遊走能の亢進が示唆された。次に走査電子顕微鏡により細胞表面の微細構造を観察したところ,SMG条件では細胞表面に異常な陥入構造が出現した細胞が観察され,細胞膜を介する物質輸送の異常が示唆された。そこでSLCO2A1とCaveolin-1の局在を蛍光二重標識で検討したところ,対照条件と比べてSMG条件では有意に高い共局在率を示した一方で,SLCO2A1とGM130の局在はSMG条件で有意に低い共局在率を示した。また,slco2a1の遺伝子発現はSMG条件で有意に低下していたのに対し,abcc4の遺伝子発現はSMG条件で有意に上昇しており,細胞内PGE2濃度の上昇に対して,代償的にslco2a1の遺伝子発現が上昇している可能性が示唆された。
以上のことから,微小重力下においては,血管内皮細胞内でSLCO2A1の細胞膜への輸送が増加し,PGE2の細胞内受容体への結合が亢進することによって,血管内皮細胞の遊走が促進される可能性が示唆された。