宇宙航空環境医学 Vol. 62, No. 1, 12, 2025
シンポジウム2
『宇宙×救急』~ケースディスカッションから考える,宇宙臨床ことはじめ~
堀野 雅祥1,石橋 拓真2
1杏林大学医学部救急医学
2東京大学医学部付属病院
Space x Emergency:Exploring Clinical Space Medicine via Case-Based Discussions
Masayoshi Horino1, Takuma Ishibashi2
1Department of Trauma and Critical Care Medicine, Kyorin University School of Medicine
2The University of Tokyo Hospital
『20XX年,民間宇宙旅行が当たり前の時代になった。地上で十分な健康管理を受けた宇宙飛行士のみならず,民間人が宇宙に旅をしている。数日間滞在することも珍しくなくなった。ロマンに満ち溢れた世界である。良い時代だ…
突然,民間人の1人が片方の手足が動かないと言っている。1人が左の胸のあたりが締め付けられるように痛いと言っている。滞在中民間人の多くが,嘔吐・下痢・腹痛を訴えている。先生,どう対応したらいいですか!』
上記シナリオは架空の話ではあるものの,宇宙観光業が盛んになる中で容易に想像がつき起こりうる事象である。しかし,ライフサイエンス・基礎医学研究に関しては今までの宇宙開発事業で研究が進んでいるものの,臨床医学の観点からは多くが未開拓な領域であり,宇宙旅行時の医学的問題に関しての議論は十分されているとは言えない。医療機器は何が使えるのか,診断・治療はできるのか,遠隔医療を施せるのか,医療従事者を常駐させるのか,緊急帰還させるならどの国で対応するのか,宇宙で治療するにはどの国の法に則るのか,宇宙旅行に対する保険制度はどうするのか,など議論の種は山積みである。本大会に参加している医療者の多くが,将来の宇宙空間での臨床医学の担い手になると考えられ,現在正解がない,宇宙空間での臨床医学を早急に考え議論しなければならない時代が来ている。
今回の若手の会シンポジウムでは,フィクションとして幾つかの症例を題材としながら,地球で日常的に見られる救急疾患が宇宙空間で起こった時に,診断・治療にどのような問題が起きうるか,自由な発想で考えていきたい。このシンポジウムは答えがあるものではなく,皆で議論しながら答えを作り出していく,白紙の状態からのスタートである。今回はそのうち「脳神経疾患」,「心疾患」,「多数傷病者」の3テーマに焦点を当て,各疾患に対して宇宙航空医学の専門家であり,かつ臨床医学の専門家でもある先生方にご登壇をいただき,普段病院で行われるケースカンファレンスのような形で議論をいただく。本シンポジウムが宇宙臨床医学発展の端緒となり,地球上の医療と同様に,多職種が関わるカンファレンスへとつながればと願っている。
末尾になりますが,今回ご登壇を快くお引き受けくださった先生方に深く御礼申し上げます。
(ご登壇をお引き受けくださった先生方)
カンファレンスリーダー:柴田 泰佑先生
カンファレンスアドバイザー:徳丸 治先生
脳神経疾患カンファレンス:有屋田 健一先生
後藤 正幸先生
心疾患カンファレンス:木田 圭亮先生
柴田 茂貴先生
多数傷病者カンファレンス:笠井 あすか先生
小濱 圭祐先生