宇宙航空環境医学 Vol. 62, No. 1, 11, 2025

シンポジウム1

宇宙航空分野における性差医療を考慮した男女共同参画推進

エアラインパイロットのライフワークバランスについて

澤本 尚哉1,藤野 善久1,笠井 あすか2

1産業医科大学環境疫学
2日本航空株式会社

Work-Life Balance of Female Airline Pilots−A Quantitative Text Analysis

Naoya Sawamoto1, Yoshihisa Fujino1, Asuka Kasai2

1Department of Environmental Epidemiology, Institute of Industrial Ecological Sciences, University of Occupational and Environmental Health Japan
2Japan Airlines Co. Ltd

歴史的にエアラインパイロットは男性中心の職場であり,男性的な信念,価値観,認識が形成され,ゆえに女性が参入するには困難な環境となっている(Neal-Smith, 2016)。また業界における女性のロールモデルの欠如により,パイロットを目指す女性が増えにくいとされる(Neal-Smith, 2016)。ICAOの統計によれば,世界各地域における女性エアラインパイロットの割合は,地域ごとのばらつきがあるが,最も多い地域で6%,低い地域で2%弱である(ICAO, 2021)。日本の主要航空会社における女性の割合は2%程度であり,世界の最も低い水準と同様である(国土交通省,2024)。他の交通モードの運転職と比較しても,女性パイロットの割合は最も少ない(厚生労働省,2024)。
 職場におけるジェンダー偏見と差別は,女性パイロットにとって依然として大きな障壁となっている(Yanıkoğlu et al., 2020)。これらの偏見は女性に心理的負担をかけ,仕事のパフォーマンスや昇進に影響を及ぼす可能性がある。日本の主要航空会社における機長昇格の割合は,近年その差は縮小傾向にはあるが,いずれの年齢階級においても男性より女性の方が低いのが現状である。
 航空業界は,ジェンダーの多様性を高める変革を今後早急に進める必要があるだろう(Morrison, 2021)。ICAOや各国の航空当局による取り組みにもかかわらず,航空業界の組織文化は変化が遅いことが指摘されている(Neal-Smith, 2016;Thatchatham & Peetawan, 2020)。近年,日本の主要航空会社では20代女性パイロットの増加のペースが早い(国土交通省,2024)。今後女性の割合が急速に増えることを鑑みれば,日本の航空業界は女性の健康についてより体系的に取り組んでいく必要がある。