宇宙航空環境医学 Vol. 62, No. 1, 10, 2025
シンポジウム1
宇宙航空分野における性差医療を考慮した男女共同参画推進
女性の宇宙進出における医学的課題
杉村 航大1,2,3
1日本大学大学院医学研究科宇宙航空環境医学
2日本大学医学部社会医学系衛生学分野
3日本大学医学部産婦人科学系産婦人科分野
Medical Challenges for Women’s Participation in Space Exploration
Kodai Sugimura1,2,3
1Aerospace and Environmental Medicine, Nihon University Graduate School
2Department of Social Medicine, Division of Hygiene, Nihon University School of Medicine
3Department of Obstetrics and Gynecology, Nihon University School of Medicine
近年,女性の宇宙進出が進んでいる。女性宇宙飛行士は徐々に増加し,近年JAXAやNASAで選抜された宇宙飛行士候補者の約半数が女性である。しかし,宇宙飛行における男女差に関する知見は限られており,男女差に焦点を当てた宇宙医学研究の重要性が増している。
宇宙ではヒトは微小重力環境,閉鎖環境,放射線曝露といった特殊な環境に曝され,生理機能に様々な影響を受ける。代表的な例として,宇宙酔い,筋肉および骨量の低下,体液の頭側へのシフト,そして眼球の異常などが挙げられる。また,ヒトには解剖学的・生理学的な生物としての性差が存在する。男性女性で異なった生殖器を持ち,男性は筋肉量や心拍出量が多く,女性は脂肪量が多いという傾向があり,女性には月経があり妊娠が可能である。このような男女差が宇宙飛行への適応における生理的な反応にも影響を与える可能性があるが,宇宙医学領域での男女差の報告は限られている。
今後の女性の宇宙進出における医学的課題として,宇宙での月経管理,宇宙での静脈血栓症,宇宙貧血が挙げられる。女性宇宙飛行士にとって訓練中,ミッション中の避妊及び月経管理は重要であり,低用量ピル内服などのホルモン治療による月経管理をしている人が多い。2019年に初めて宇宙飛行中に静脈血栓症が偶発的に発見され,今後の長期宇宙飛行に向けて解決すべき問題の一つとされている。女性宇宙飛行士の低用量ピルの内服は血栓症のリスク因子となると考えられる。宇宙飛行後に地上へ帰還した際に貧血を呈する宇宙貧血は,滞在期間が長くなるほどその程度が顕著になり,女性は男性よりもその影響が大きいことが示唆されている。より長期の宇宙滞在を経験した宇宙飛行士や,健康管理が十分でない宇宙旅行者の宇宙滞在後には,宇宙貧血が大きな健康課題となる可能性がある。
ヒトの男女差に関する研究に関しては,研究デザイン,データ解析,結果の解釈に際して留意する必要がある。当研究室では,女性研究対象者に対しては,「女性特有の選択基準を設ける」,「月経周期を統一して実験を行う」,「実験に際して女性スタッフを動員する」,などの点を考慮し複数の男女差に関する研究を進めている。
本講演では,宇宙医学における男女差,女性の宇宙進出に課題となりうるトピックス,当研究室での男女差研究に関しての取り組みを紹介した。