宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 39, 2024

学生演題 1

B1-5. 地球低軌道周回軌道より遠方宇宙滞在時の放射線被曝による長期的な影響の検討

廣谷 らいら1,清水 凜佳1,粕本 亜美1,中山 陽斗1,山口 修平1,星 昂太郎1,塩屋 沙季1
清水 凜佳 1,アウレリウス セバスチャン チャンドラ1,小田 哲史1,山下 雄大1,茅原 武尊1
アバスザデ ダニエル アリヤ1,瀧澤 玲央2,5,山添 真治2,田中 達也1,黒住 献1
木下 翔太郎3,田島 寛之4,堀口 淳1,中原 公宏1

1国際医療福祉大学 宇宙医学研究会,2牛久愛和総合病院,3慶應義塾大学医学部ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座,4千葉大学大学院医学研究院 医学教育学,5東京慈恵会医科大学細胞生理学講座・宇宙医学研究室

Study of long-term effects of radiation exposure during stays in space farther than low Earth orbit

Raira Hirotani1, Rinka Shimizu1, Ami Kasumoto1, Haruto Nakayama1, Shuhei Yamaguchi1, Kotaro Hoshi1,
Saki Shioya1, Aurelius Sebastian Chandra1, Satoshi Oda1, Yudai Yamashita1 ,Takeru Kayahara1,
Abbauzadeh Daniel Ariya1, Reo Takizawa2,5, Shinji Yamazoe2, Tatsuya Tanaka1, Sasagu Kurozumi1,
Shotaro Kinosita3, Hiroyuki Tajima4, Jun Horiguchi1, Kimihiro Nakahara1

1Space Medicine Research Group, School of Medicine, International University of Health and Welfare, 2Ushiku Aiwa General Hospital, Department of Endovascular Therapy, Ibaraki, Japan, 3Hills Joint Research Laboratory for Future Preventive Medicine and Wellness, Keio University School of Medicine, 4Department of Medical Education, Chiba University School of Medicine, 5Division of Aerospace Medicine, Department of Cell Physiology, The Jikei University School of Medicine

宇宙開発においてアメリカ航空宇宙局・宇宙航空研究開発機構をはじめ様々な研究機関や企業が地球低軌道(low Earth orbit)における短期〜長期ミッションを多数行いつつ,放射線暴露の短期的および長期的影響について様々な知見を重ねて来ています。現在進行中の月周回の有人活動拠点ゲートウェイをはじめとした有人月探査計画や有人火星探査計画などヒトがLEOより遥かに遠方へ有人探査領域を広げることは輸送システムでは可能となりつつあります。ヒトの活動範囲がLEOより遠方になると,地球磁気圏内の放射線帯粒子やその2次放射線,さらに遠方では,太陽風・太陽粒子や太陽系外からの銀河宇宙放射線高エネルギー粒子および2次放射線の暴露に晒されます。探査場所が遠くなるほど移動時間を含めた現地滞在・屋外作業時間などは月〜年単位と宇宙空間で長期間過ごすようになります。LEO上の国際宇宙ステーション(ISS)での被曝量は1日あたり0.5〜1.0mSvですが,深宇宙探査では被曝線量の増大(火星往復ではISSの約6倍)が懸念されます。LEO以遠の宇宙活動時の放射線暴露による人体への長期的影響を予測できれば,将来のがん発症率や血管病変の発症への対策が可能になると思い影響評価を行いました。方法は,1965年のジェミニ計画以降の有人宇宙計画のうち,NASA data baseより生理学的dataの公表されているものや公表されているISS mission以降の追跡DATAやその文献を収集し,宇宙飛行士の宇宙放射線によるリスクの評価を学部生と共に調査ミーティングをおこないました。結果としては,現在までLEOを越えて宇宙空間を移動したヒトは米国アポロ計画での24名(11ミッション)と少人数ですが,脳卒中を含む循環器系疾患での死亡は7名の内3名(死亡率43%)とISSでの11%(長期ミッションを含む)と比べても非常に高率で,アポロ計画にて地球周回軌道に留まった宇宙飛行士での9%と比較しても比較的短期のミッションにもかかわらず高率と判断されます。その要因としては,無重力状態の暴露・銀河宇宙放射線への暴露・閉鎖環境への暴露など様々な影響が考えられますが,がん発症率に関しては両群間に優位差は認められませんでした。日常診療において頭頸部がん症例への放射線治療後に照射領域に一致した両側性に発症する頸動脈狭窄変(RCAD)の発症が20年程前より注目されており,放射線暴露後平均2〜5年の経過で19〜38%の症例で50%以上の狭窄性病変を認め,脳梗塞の発症リスクも非暴露例と比し2〜5.6倍高いことが報告されています。今後,増加してくるLEO以遠への旅行者には,新たな宇宙放射線防御機構の提供や旅行中の被曝線量の簡易な測定や放射線暴露への耐性向上手法の開発,暴露後2年以降に関してエコーなどでの定期的な血管健診が必要になるものと判断されました。学部生と共に調査ミーティングをおこなった結果を報告します。

 キーワード:宇宙背景放射線,放射線防護,循環器系疾患,深宇宙有人探査,RCAD