宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 35, 2024
学生演題 1
B1-1. 30 日間の宇宙滞在によるマウス尾部組織に対する影響
生長 ありさ1,2,神田 正樹3,三宅 将生2,挟間 章博2
1 福島県立医科大学医学部医学科学部学生
2 福島県立医科大学医学部細胞統合生理学講座
3 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院
The Effects of 30 day-space-travel on mouse tail tissue
Arisa Ikunaga1,2, Naoki Kanda3, Masao Miyake2, Akihiro Hazama2
1 Fukushima Medical University School of Medicine
2Department of Cellular and Integrative Physiology, Fukushima Medical University School of Medicine
3Center Hospital of the National Center for Global Health and Medicine
【背景】 げっ歯類を用いた微小重力模擬実験の多くに尾部懸垂が用いられてきた。しかし,尾部に負荷がかかるため,尾部そのものを実験対象にした研究は少ない。一方で,尾は体温調節と姿勢制御に重要な役割を果たしており,上肢や下肢と同様に三次元に随意運動を行うことができる。そのため,尾に含まれる筋や骨にも変化が生じていることが期待されるが,こちらも十分なデータがあるとは言えない。また,尾部血管は体長と比較しても長く,微小重力環境による静水圧の影響と,その部位差の存在が考えられる。今回,『「きぼう」利用マウスサンプルシェア』として JAXA より尾部組織の供与を受けることができたのでその解析結果を発表する。
【方法】 9 週齢マウスを軌道上にて 30 日間飼育し,帰還後にホルマリン固定した後,−30℃で保管されていたサンプルを利用した。軌道上微小重力群(μG 群),軌道上人工重力群(A1G 群),地上飼育群(1G 群)がそれぞれ6個体ずつ用意された。肉眼的観察,小動物用X線 CT 装置(ALOKA LCT-200)による非破壊検査の後,組織切片を作成して解析した。
【結果】 提供された尾部組織は皮膚が除去されたものであった。尾全体の重量は 1G 群 0.38±0.01 g に対し,μG 群では 0.32±0.02 gと有意に軽くなっていたが,A1G 群では 0.37±0.02 g とその差は見られなくなっていた。また,尾の長さに関してもμG 群では短くなっていた(μG 群:77±9 mm,A1G 群:89±2 mm, 1G 群:90±1 mm)。なお,μG 群では尾の先端に壊死している例も見られた。さらに直径を尾根からの距離ごとに測定したところ,末梢側(30 mm,50 mm 部位位遠)ではμG 群で有意に細くなっていることがわかった。70 mm 部位以遠は壊死した標本の影響も考えられたが,それらを除いても有意な差が確認できた。このように微小重力の影響と,軌道上遠心の効果が確認できた。X 線 CT による尾部全体の測定では,海綿骨密度,骨梁面積比率などに微小重力の影響が確認され,人工重力によって回復傾向が確認できるものがあった。55 mm 部位での組織切片(31個の尾椎中14番目相当))では,左右径(A1G群 1.38±0.11 mmに対し,μG群1.26±0.16 mm),前後径(1G群 1.42±0.06 mm に対し,μG 群 1.30±0.15 mm),皮質骨断面積(1G群0.228±0.034 mm2に対し,μG群0.175±0.029 mm2)ともにμG 群で有意に小さくなっていたことがわかった。
【考察】今回の結果から,μG 群の尾部は小型化しているようだったが,その程度は一様ではなく,部位によって異なることが示唆された。また,軌道上微小重力の影響は人工重力によって一部消失した可能性が考えられた。尾部先端壊死の原因としては乾燥やうっ滞などが考えられるが,μG 群で見られた壊死例が A1G 群では見られなかったことは興味深い。このように,尾は「五本目の長い肢」としての利用が期待できるため,今後も引き続き解析していきたい。