宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 32, 2024

一般演題 4

4. 月および火星におけるヒトの歩行パターンおよびエネルギー消費量の推定

大平 充宣1,大平 宇志1,4,竹田 正樹1,2,内藤 久士1,5,大畑 寿夫1,6,後藤 琢也1,3

1同志社大学宇宙医科学研究センター
2同志社大学スポーツ健康科学研究科
3同志社大学理工学研究科
4近畿大学医学部
5順天堂大学スポーツ健康科学研究科
6メソン株式会社

Estimation of walking pattern and energy consumption in human on the Moon and Mars

Yoshinobu Ohira1, Takashi Ohira1,4, Masaki Takeda1,2, Hisashi Naito1,5, Toshio Ohhata1,6, Takuya Goto1,3

1Research Center for Space & Medical Sciences, Doshisha University
2Faculty and Graduate School of Health & Sports Science, Doshisha University
3Science and Engineering, Doshisha University
4Department of Physiology & Regenerative Medicine, Kindai University School of Medicine
5Graduate School of Health & Sports Science, Juntendo University
6Messung Co.

月および火星における長期有人探査計画が進行している。低重力環境においては,抗重力筋活動のみならず全身の細胞にかかる重力も抑制されるわけであり,生理的特性に誘発される影響が危惧される。そこで我々は,同志社大学倫理審査委員会の承認を得て本実験を実施した。健康成人男女を被験者として,これらの環境における歩行パターン(~2 km/h, 0% inclination) や立位,座位,仰臥位安静時および歩行時の酸素消費量 (VO2) の推定に挑戦した。Ground reaction force (GRF)が地球上の1/6または3/8の環境におけるこれらの反応を推定するために,ジェット機 (DAS, MU-300) の弾道飛行,Alter-Gトレッドミル,および身体懸垂による実験で,GRFレベルは同一であっても全身体細胞にかかる重力および体液シフトレベルが異なった場合の影響の解明を目指すものである。下肢筋筋電図記録およびビデオ撮影による歩行パターンの測定およびbreath-by-breath方式によるVO2測定を行った。弾道飛行により得られる低重力時間は短く,しかもその前の過重力の影響もあり,特にVO2レベルの反応には確たるエビデンスは得られなかった。しかし,その後実施したAlter-Gトレッドミル実験では,GRFレベルの低下に応じて歩行中VO2は減少するという結果が得られた。ところが,この場合全身の細胞にかかる重力は1-Gのままであったわけで,主目的であったGRFおよび全身の細胞にかかる重力レベルを低重力環境レベルに統一した弾道飛行中のエネルギー消費量の推定には至らなかった。例えば月面における基礎代謝量 (BMR) の正確な推定は,3/8-Gの火星やμ-Gの国際宇宙ステーションでも不可能で,月面でしか実施できない。BMRレベルは日常の必要カロリー摂取量にも影響を及ぼすはずであり,それを推定するために本実験を実施した。残念ながらGRFレベルの変化に応じた反応しか求められなかったが,低重力環境ではさらに低下するであろうという示唆は得られた。
 本研究はDoshisha Space-DREAM Project.によるサポートを受けて実施した。