宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 28, 2024

一般演題 3

6. 乱気流に起因した客室での負傷事故―本邦における23年間の疫学調査

澤本 尚哉,川西 譲児

さっぽろ銀杏会記念病院 航空身体検査科

Turbulence-Related Injuries in Cabins:An Epidemiological Study in Japan

Naoya Sawamoto, MD, MPH, Joji Kawanishi, PhD

Department of Aerospace Medicine, Sapporo Ginnankai Memorial Hospital, Sapporo, Japan

【背景】 乱気流に起因した旅客や乗務員の負傷は古くから続く重要な問題である。現在までに様々な対策がとられ,気象予報資料の充実など技術面も進歩しているが,依然として解決には至ってない。近年本邦では産業衛生的観点からの研究は稀有であることから,本発表では本邦定期航空運送事業者を対象にした乱気流等に起因した旅客や乗務員の負傷についての疫学的調査を目的とした。
 【対象と方法】 2000年から2022年までの23年間で航空事故として扱われた本邦定期航空運送事業の客室内での負傷を対象とした。運輸安全委員会(JTSB)のホームページを用いて,事故報告書等の内容をレビューした。ただし発表時に最終報告書が公開されているものを対象とした。調査内容は事故の起きた日付,航空機の型式,飛行高度と飛行フェーズ,ベルトサイン点灯の有無,気象状況,負傷者の種類(乗務員,乗客の別)とその人数,傷病名等とした。
 【結果】 関連する航空事故は合計26件(平均1.1件/年)で,最も多かったのは2022年の5件であった。主な状況は次のとおりである。客室乗務員が負傷者の半数以上を占めていた。負傷部位は足部,骨盤,脊椎の順で多かった。機体後部での受傷が最も多く,ほとんどの事故はシートベルトサインが点灯していない,または点灯した直後に起こっていた。一方でシートベルを着装し着座中の負傷事故も確認された。
 【考察】 乱気流による客室での負傷は近年でも少なからず発生しており,依然として重大な問題であることが示された。事故のほとんどがシートベルトサイン消灯時か点灯直後に起こっており,揺れの予測が難しいことが推察される。シートベルトサイン点灯時にも負傷が起こっていることから,旅客へのシートベルト着用の仕方の周知,座席構造の見直し,運航面での配慮等が対策として考えられる。不意な揺れは発生しうるという前提に立ち,一部の海外航空会社では客室乗務員が保持できる手すりの設置,特に揺れが大きいとされる後方部へ客室乗務員用の専用席を確保するなどといった工夫が行われており,その効果が注目される。