宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 27, 2024

一般演題 3

5. 人体・動物の酸素運搬機構に関する一考察,その3

吉田 泰行1,2,中田 瑛浩3,井出 里香4,山川 弘毅5,長谷川 慶華6

1威風会栗山中央病院 耳鼻咽喉科,2民医連二和 ふれあいクリニック,3威風会栗山中央病院 泌尿器科,
4東京都立大塚病院 耳鼻咽喉科,5国立病院機構 埼玉医療センター,6長谷川内科クリニック

An Inquiry into the Mechanism of Oxygen Transport of the Human Body and non-Vertebrate Creatures, Part 3

Yasuyuki Yoshida1,2, Teruhiro Nakada3, Rika Ide4, Hiroki Yamakawa5, Keika Hasegawa6

1Department of Ear, Nose and Throat, Kuriyama Central Hospital, 2Fureai Clinic, Futawa Hospital,
3Department of Urology, Kuriyama Central Hospital, 4Department of Ear, Nose and Throat, Metropolitan Tokyo Hospital,
5Department of Ear, Nose and Throat, JCHO Saitama Hospital, 6Hasegawa Clinic of Internal Medicine

【緒言】 今迄の経過:生体組織に於いて脊椎動物等の高等動物では,運用に手間が掛かるが全身的な酸素運搬装置(呼吸循環系)を構築した。一方節足動物等の下等動物では手間の掛からない体節毎の物理的拡散 任せの気門〜気管系を構築したが,体の大きさは制限を受ける事となった。しかしながら高等動物に於いても低酸素にならざるを得ない部位/時期等は有り,細胞は低酸素誘導因子(HIF)を動員して乗り切って来た。この点を踏まえ,前回に引き続き今迄の経過を仮説と共に展開してみたい。
 動物の酸素運搬機構:地球の酸素濃度の変遷を考察するに,誕生直後の嫌気的大気はシアノバクテリアの活動と共に酸素濃度は急激に増加し,現在に至った。太陽系内の岩石惑星の大気を比較すると,金星では約100気圧程ある大気の96%以上は二酸化炭素であり,火星では約100分の1気圧の大気の95%は矢張り二酸化炭素であり,共に極めて嫌気的であった。地球での大気中と水中の酸素含有量を比較してみると,単位体積当たり209/7となり,同じ媒質の質量当りで見ると約3万/1となる。(同じ量の酸素を得るのに3万倍の媒質を動かさなければならない) 此処で体節毎の気門による開放循環系の昆虫と,全身をカバーする手間の掛かる閉鎖循環系の対比をしてみると,開放循環系は機構としては手間が掛からないが物理的拡散を根本原理として使用する為体を大きくする事ができない。一方閉鎖循環系では機構の構築に手間暇が掛かるが,一旦機構に基づいた組織ができてしまえば効率よく組織を大きく発展できるのである。
 更に人類を含む閉鎖循環系での酸素運搬方を二つ示すが,一つは主たる血色素による結合酸素ともう一つの普段は殆ど働かない血漿の水分中に溶解する溶解酸素である。
 癌と高気圧酸素治療:この溶解酸素(溶存酸素)はヘンリーの法則に従い気圧の増加と共に増加して行く ので1気圧より高くなると意味を持つ様になる。それを利用したのが高気圧酸素治療である。固形癌に於いては,その無秩序な増殖により栄養血管との不釣り合いで内部に酸素の供給に支障を来し低酸素誘導因子(HIF)の発現で辛うじて生存している部分がある。そこで充分な酸素供給を行い低酸素誘導因子を阻害し腫瘍の増殖を押さえる可能性がある。
 【考按】 ① 地球大気の組成は約20%の酸素を含み,これは太陽系惑星としては特殊で地球独特の生物活動の結果(シアノバクテリア〜光合成植物)と考えられる。② 地球上の生物は,一部の原始的細菌類を除い て,酸素を利用して生存の為のエネルギー産生を行っている。③ 動物では酸素の取り込み・運搬の機構を持っているが,そのシステムは様々である。(開放循環系・閉鎖循環系) ④ 水中と空気中での酸素含有力は大きな差が有り,動物は進化・発展の為豊富な酸素を求めて水中から陸上へと進出した。⑤ 人類を含む陸上生活の哺乳類は,現今の1気圧の大気組成・20%酸素分圧によく適応している。⑥ 癌細胞はその無秩序な増殖と循環系の酸素供給との不釣り合いの為,低酸素に陥り低酸素誘導因子を用いてその生存を図って居る。
 【結語】 前回に引き続き地球上の生物の酸素運搬機構に付いて,地球環境と大気組成の変化と生物の進化に関して仮説を立て検討し,併せて癌と低酸素の点からも考察を行った。