宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 23, 2024

一般演題 3

1. HDTにおける頸部交感神経幹並びに腎交感神経活動と脳血流の変化

松尾 聡1,松尾 紀子2,渡部 佑3,中村 陽祐3

1鳥取大学医学部適応生理学分野
2鳥取大学医学部附属病院高度救命救急センター
3鳥取大学医学部附属病院耳鼻咽喉・頭頸部外科

Changes in cervical sympathetic trunk and renal sympathetic nerve activity and cerebral blood flow during head-down tilt

Satoshi Matsuo1, Noriko Matsuo2, Watanabe Tasuku3, Yosuke Nakamura3

1Division of Adaptation Physiology, Department of Physiology, Tottori University Faculty of Medicine
2Emergency and Critical Care Medicine Center, Tottori University Hospital
3Department of Otolaryngology, Head and Neck Surgery, Tottori University Faculty of Medicine

Head down tilt(HDT)体位変換時の脳循環調節の神経性調節機構を明らかにすることが目的である。HDT時,圧受容器(BR)や体性感覚入力がその調節に関与することはよく知られている。HDTで起こった体液の頭方移動はBRを賦活する。その結果,腎交感神経(RSNA)や下肢の筋交感神経活動が抑制される。我々の実験でも,麻酔下の45°HDTによってRSNAの抑制が生じた。この抑制作用は前庭器を介し,BR由来の作用より速い交感神経抑制反応であった。45°HDTを行うと下半身は心臓より高位になるので,下半身における交感神経の抑制は,体液頭方移動に伴う急激な脳血流量の増加を避ける為には合目的的であると思われる。一方HDRで頭部は心臓より低位になるので,頸部交感神経幹(CST)の活動(CSTA)の抑制は適切とは思えないが,現時点ではHDT時のCSTAの活動様式は不明である。そこでHDT時CSTAが脳血流の調節作用を持つかどうかを検証するために,種々の条件でHDTを行い,CSTAと脳血流調節の関係を検討した。
 今回,ラットとウサギを用いた。外科処置はセボフルラン吸入,HDT負荷実験はウレタン麻酔下に行った。動脈圧は大腿動脈から測定した。脳血流は一側の頭頂葉実質にレーザードップラー計測プローブを固定し測定した。神経活動は双極電極で記録した。動物を回転台に水平位,腹臥位におき,5秒かけて頭位が45 °下降するまで体位変換し,更にその体位を1〜5分間維持し,HDT負荷とした。
 HDT前の平均動脈圧は各実験間で差はなかった。HDT前後で明らかな心拍数の変化はなかった。HDRにより平均動脈圧は低下し,1分以内に回復した。この一過性の血圧低下はラットに比べウサギの方が顕著であった。Hexamethonium投与後,HDTによる一過性の動脈圧低下は消失した。Phenoxibenzamine投与後も,HDTによる一過性動脈圧低下は消失した。HDTによりRSNAは抑制され,その後に動脈圧が低下した。HDT中,CSTAの有意な変化はなかった。HDTによって脳血流は有意に変化しなかった。Phenoxibenzamine投与後,脳血流量に変化はみられなかった。両側CST切断後にHDTを行うと,一過性の動脈圧低下が認められたが,脳血流の有意な変化はなかった。HDTによる体液頭方移動に対し,交感神経抑制を介する動脈圧の低下を認めた。この交感神経の抑制は,CSTより腎交感神経で顕著であった。対照群,両CST切断群,α受容体遮断薬投与群で,HDT中の脳血流に変化がなく,HDT時の脳血流自動調節能の機構は,本質的には筋原性であると推察した。