宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 22, 2024
一般演題 2
4. 脳内リンパ系の非侵襲的評価:硬膜下血腫症例でのDiffusion Weighted Image Analysis Along the Perivascular Space法の応用
田岡 俊昭
名古屋大学 大学院医学系研究科 革新的生体可視化技術開発産学協同研究講座
Noninvasive assessment of the brain lymphatic system in cases of subdural hematoma
Toshiaki Taoka
Department of Innovative Biomedical Visualization (iBMV), Graduate School of Medicine, Nagoya University
【背景】 従来脳内にはリンパ系が存在しないと考えられてきたが,近年,脳間質腔がリンパ系として機能していることが明らかになりつつある。Glymphaticシステムと呼ばれるこの系は,航空機での気圧変化,あるいは宇宙飛行での微小重力環境によって影響されることも示唆されている。このGlymphaticシステムの評価,特に非侵襲的な評価手法は現時点で確立されていないが,いくつかの方法が提案されている。その一つであるDiffusion tensor image analysis along the perivascular space (DTI-ALPS)という評価方法は,Glymphaticシステムでの主な水分子の動きの方向である血管周囲腔方向の水分子のブラウン運動がどの程度優勢であるかということを,MRIの拡散画像を用いて評価する手法である。このDTI-ALPS法では既に多くの報告でGlymphaticシステムの状態を反映していることが示唆されている。DTI-ALPS法を簡略化し,日常診療のMRI画像で評価できるようにした手法がDiffusion Weighted Image Analysis Along the Perivascular Space (DWI-ALPS)法であり,短時間での撮像が可能となっている。
【目的】 航空あるいは宇宙環境で変化することが考えられる脳間質液動態の評価手法としての,DWI-ALPS法の応用可能性に関して,同じく脳間質液動態の変化を来すと考えられる硬膜下血腫症例で検討する。評価には,血管周囲腔方向の水分子の拡散の比率から脳間質液動態を反映すると考えられるALPS indexを用いた。対照として非疾患例でのALPS indexも評価したが,その年齢分布についても検討した。
【対象と方法】 本後方視研究は,拡散強調像を撮像された硬膜下血腫16例と年齢適合対照34例を対象とした。臨床用MRI装置で拡散画像を撮像し,XYZの3軸の拡散画像から,ALPS indexを算出し,硬膜下血腫群と対照群を比較した。また,硬膜下血腫群内で,血腫の厚さとの相関の評価,認知機能障害や両側血腫の有無とALPS indexの関連の評価を行った。同時に,年齢適合以外の対照例94例も含めてALPS indexの年齢分布について評価を行った。
【結果】 対照群(1.38±0.16)と比較して,硬膜下血腫群(1.26±0.13)はALPS indexは有意(p<0.01)な低値を示した。血腫の厚さとALPS indexの相関係数は−0.20であり,有意な相関はなかった。認知機能障害群と非障害群に有意差はなかった。両側血腫群(1.21±0.08)では片側血腫群(1.48±0.05)よりもt検定で有意(p<0.001)に高いALPS indexを示した。対照群では年齢とALPS指数の間の線形回帰分析は,全年齢層で−0.20,40歳以上のサブグループで−0.51の相関係数を示した。二次回帰分析では相関係数は0.39であった。
【結論】 DWI-ALPS法による算出で,硬膜下血腫例では対照よりも低いALPS indexを示し,血管周囲腔方向の拡散能の低下を示す結果となり,間質液動態の異常が示唆された。このことから,ALPS法によって硬膜下血腫でのGlymphatic systemの効率の低下を評価可能であると考えられた。また,非疾患例においては,年齢とALPS indexの間に相関が認められ,40歳代にピークを示す分布を示していた。今後,このALPS法により航空あるいは宇宙環境での脳間質液動態の評価が可能となると考えられる。