宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 20, 2024

一般演題 2

2. 前庭誘発頸筋電位における球形嚢平衡斑の位置の影響

釼持 新1,瀬尾 徹1,小池 遥介1,青海 瑞穂1,四戸 達也1,肥塚 泉2,小森 学2

1聖マリアンナ医科大学 横浜市西部病院 耳鼻咽喉科
2聖マリアンナ医科大学 耳鼻咽喉科

Position effect of the saccular macula on cervical vestibular evoked myogenic potentials

Arata Kemmochi1, Seo Toru1, Koike Yosuke1, Mizuho Aomi1, Tastuya Shinohe1, Izumi Koizuka2, Manabu Komori2

1St. Marianna University Yokohama Seibu Hospital, Department of Otolaryngology-Head and Neck Surgery
2St. Marianna University Hospital, Department of Otolaryngology-Head and Neck Surgery

【はじめに】 前庭誘発頸筋電位(cervical vestibular evoked myogenic potential:cVEMP)は球形嚢由来の胸鎖乳突筋にみられる筋原性反応である。これまでcVEMPの結果は頭位によって影響を受けにくいとされてきた。しかし重力方向が180度逆となる刺激耳上頭位と刺激耳下頭位とでは結果に影響が生じる可能性がある。
 【対象と方法】 対象は健康成人6名(男性3名:女性6名,年齢29〜41歳)である。球形嚢斑がほぼ水平となる側頭位で,刺激耳上と刺激耳下の2種類の頭位において,気導刺激(95 dBSPL)と骨導刺激(55 dBnHL)におけるcVEMPのp13,n23潜時とp13-n23頂点間振幅を検討した。
 【結果】 気導刺激において,刺激耳上頭位に比較し刺激耳下頭位では振幅は減少傾向があった(変化率−4.6%)。骨導刺激においては,刺激上頭位と刺激耳下頭位において振幅の差は認めなかった(変化率+0.03%)。p13,n23潜時については,気導刺激と骨導刺激のいずれにおいても,頭位による差は認めなかった。
 【考察】 気導刺激では頭位の影響を受けたのに対し,骨導刺激では頭位の影響を受けなかった。その理由として刺激伝達の相異によるものと考えた。耳石器が振動に反応する様式には,耳石の振動が感覚毛を振動させる加速度計モードと平衡班の振動により感覚毛が振動する振動計モードの二つがある(Grant & Curthoys, 2017)。500 Hzのような低周波の気導刺激においては,加速度計モードとして働くとされる。刺激耳上頭位では耳石が感覚毛の上方に位置し効率的に振動が伝達するのに対し,刺激下頭位では逆向き重力により耳石と感覚毛の間に間隙が生じ振動の伝達に損失が生じるものと考えられる。一方,骨導刺激では,直接平衡斑が振動するので(振動計モード)頭位は感覚毛の変位に影響を与えないものと考えた。