宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 18, 2024

一般演題 1

5. 月での人間社会構築活動に関する二,三の提言

清水 強1,西村 宗修2

1諏訪マタニテイークリニック 附属清水宇宙生理学研究所
2神奈川工科大学健康医療科学部臨床工学科

Some suggestions on the activity for constructing a human society on the moon

Tsuyoshi Shimizu1, Hironobu Nishimura2

1Shimizu Institute of Space Physiology, Suwa Maternity Clinic
2Department of Clinical Engineering, Faculty of Health and Medical Sciences, Kanagawa Institute of Technology

宇宙における人類社会の構築も徐々に現実味を帯びてきた。2023年にはインドのチャンドラヤーン3号の月面南極への軟着陸成功も有り,国際的活動が活発となっている。日本でも探査機の月面着陸を目指す試みは続けられて居り,“月惑星に社会を作る勉強会(ムーンヴィレッジM V勉強会)”なるセミナーも2023年10月で35回を数えるなど月を目指す研究が活発である。M V勉強会での提案も極めて具体的に練られて居り,100人単位,1,000人単位での生活を想定した住居案や経費など具体的に計算している研究者達もいる。
 こうした多人数の状況下ではこれ迄の地球周回低軌道上における少人数での生活様式や研究体制の枠を外した発想が求められるであろう。また,月の環境の人体への影響は全く未知である故この課題を追求することは必須となろう。
 人体に対する環境の構造上及び機能上の医学生理学的影響を知るためには他の動物での観察は欠かせない。研究課題によっては中型哺乳動物が望まれる。清水は長年ウサギを用いて循環調節に関する研究を行い,ウサギの種々の特徴を見出してきた経験から,月に人間社会を構築した時にはウサギを常時飼育して研究に供することで有益な結果が得られるであろうと考えてきた。従来ウサギは広く医学生理学研究に用いられてきたが,演者の見出した現象としても,例えば,麻酔下で気胸を起こさずに心臓を露出することができ,自発呼吸下で心臓の種々の機能を実測観察し得るとか,大動脈圧受容器反射の生後発達の詳細を機能及び構造上追求し,自律神経の一例として大動脈神経の有髄化の経年変化を観察し得るとか,また,微小重力下の諸機能の変化を見るモデル動物としても利用し得るなど諸々がある。因に1998年に実施されたスペースシャトルでの脳神経系に関する国際共同実験(ニューロラブ計画)に演者らが参加した時も応募の際はウサギで行う計画であった。また,ウサギは動脈硬化の研究には最適とも言われる。湿気には弱いが,概して飼育し易く扱い易い利点がある。更に,月での多人数の社会生活では食糧調達は大問題である。人工食品もできるであろうが,動物タンパク源としての食肉は渇望されると思われる。ウサギはそうした食糧源ともなる。毛皮なども活用度は高い。これらの視点から月での居住構造を検討するについては,ウサギの飼育施設を設け医学生理学研究の場を組み入れることが有用と考える。国内には“ウサギバイオサイエンス研究会”を設け活躍している研究者達もいるので,積極的に声を掛け,ウサギの活用を共に考えて行くと良いであろう。
 詳細は割愛するが,ニワトリの活用も検討したい。また,新たな社会構築には男女半々の構成を最初から実現させることが大事であろう。月での継世代問題の議論も始めたい。更に大事なことは月には戦争の無い社会を創ることである。
 その為に本学会が広く月での医学研究の推進役となることを期待したい。