3.　植物を活用した宇宙飛行士のストレス・マネジメントの検討|Psychological effect and stress management on Astronauts in Space using Plant Growth Kits

一般演題 1

3.　植物を活用した宇宙飛行士のストレス・マネジメントの検討

金井　宣茂^1,2，笹原　信一朗³ ，石塚　真美^1,4，三垣　和歌子¹，内田　聡¹，林田　稔也¹，塚田　武尊¹，
松浦　麻子^1,5，室井　慧³，池田　有⁶，髙橋　司³，堀　大介³，道喜　将太郎³，松崎　一葉^3,7

¹筑波大学　人間総合科学学術院
²宇宙航空研究開発機構
³筑波大学　医学医療系
⁴国際医療福祉大学　成田看護学部
⁵東邦大学　健康科学部看護学科
⁶大和ハウス工業株式会社
⁷筑波大学　国際統合睡眠医科学研究機構

Psychological effect and stress management on Astronauts in Space using Plant Growth Kits

Norishige Kanai^1,2, Shin-ichiro Sasahara³, Mami Ishitsuka^1,4, Wakako Migaki¹, Satoshi Uchida¹,
Toshiya Hayashida¹, Hotaka Tsukada¹, Asako Matsuura^1,5, Kei Muroi³, Yu Ikeda⁶, Tsukasa Takahashi³,
Daisuke Hori³, Shotaro Doki³, Ichiyo Matsuzaki^3,7

¹Graduate School of Comprehensive Human Science, University of Tsukuba
²Japan Aerospace Exploration Agency
³Institute of Medicine, University of Tsukuba
⁴Department of Nursing, International University of Health and Welfare
⁵Faculty of health Science, Toho University
⁶Daiwa House Industry Co.
⁷International Institute for Integrative Sleep Medicine, University of Tsukuba

【背景】メンタルヘルスが大きな社会課題の一つとなっている中，森林浴や緑地を散歩する習慣がストレス対処能力を高める可能性が示されている（Ikeda et al., 2021）。重度のストレスまたはうつ病の患者に対して自然を活用した治療により，従来の治療と変わらない効果があったという報告（Währborg et al., 2014）があり，当グループでも自然を活用したストレス・マネジメントの実践を行っている（Sasahara et al., 2023）。
　【着眼点】将来の月面や火星での有人宇宙探査ミッションは，途中での物資補給は難しく，通信量の制限や通信遅延などにより，現在，地球低軌道で行われているような宇宙飛行士に対する手厚い精神心理支援を行うことは難しい。そこで植物を活用した宇宙でのストレス・マネジメントを着想した。
　【概要】宇宙における植物の栽培は，有人宇宙飛行の初期から試みられており，微小重力や宇宙放射線といった宇宙特有の環境が植物生育に与える影響や，宇宙空間での食料自給を目指した野菜の栽培など，さまざまな宇宙実験が行われてきた（Haeuplik-Meusburger et al., 2014）。植物栽培に関する宇宙実験において，宇宙飛行士に対するポジティブな心理的影響があることは，当初から着目されており，宇宙実験に伴う作業は，宇宙飛行士にとって単なる業務を越えた安らぎ・癒しの時間となり得ることが報告されている（Quinn, 2009）。また，教育的な活動の一環として，宇宙ミッション中の宇宙飛行士がハーブや花などを育てる試みは，地球を離れ隔離閉鎖環境にある宇宙飛行士自身にとっても，地上や社会との結びつきを感じる機会となっている。しかし，このような宇宙飛行士の精神心理に対する効果は副次的なものととらえられており，これまでの植物栽培に関する宇宙実験において主たる目的とは考えられていない。
　【考察】室内の観葉植物により幸福感や喜び，心の安らぎといったポジティブな感情が促進され，ストレスや疲労感，不安などのネガティブな感情を抑えることが報告されており（Han et al., 2019），屋外の自然に触れることはできない宇宙滞在であっても，ストレス軽減効果や宇宙飛行士のパフォーマンスの維持を期待することができる。従来の植物栽培に関する宇宙実験は，クルータイムを削減する必要性から，自動化を推進する方向性で研究・開発が進んできたが，宇宙飛行士の精神心理効果を主眼とした場合，逆に宇宙飛行士が手をかけて植物を育てることが，触覚や嗅覚など五感を介して，地上との繋がりを感じさせる刺激となる可能性が考えられる。