宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 15, 2024

一般演題 1

2. SIRIUS-21月面基地環境を想定した精神心理シミュレーション試験 結果第二報
―Sociometric testを用いたクルー間の人間関係の変化―

三垣 和歌子1,金井 宣茂1,2,大井 雄一3,4,笹原 信一朗5,高橋 司5,道喜 将太郎5,堀 大介5
Maral Soronzonbold1,内田 聡1,林田 稔也1,Reem Al Assaad1,塚田 武尊1,松浦 麻子1,6
石塚 真美1,7,室井 慧8,池田 有9,村井 正10,松崎 一葉5,11

1筑波大学大学院 人間総合科学学術院 人間総合科学研究群 医学学位プログラム(産業精神医学・宇宙医学),2 宇宙航空研究開発機構,3筑波大学客員研究員,4澁谷川診療所,5筑波大学 医学医療系(生命医科学域 産業精神医学・宇宙医学),6東邦大学健康科学部,7国際医療福祉大学 成田看護学部看護学科,8筑波大学大学院 人間総合科学研究科 生命システム医学専攻(産業精神医学・宇宙医学)9大和ハウス工業株式会社,10国立研究開発法人日本原子力研究開発機構核燃料サイクル工学研究所,11筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構

Psychological effects in the space analog SIRUIS-21 (part 2):Sociometric test

Wakako Migaki1, Norishige Kanai1,2, Yuichi Oi 3,4, Shin-ichiro Sasahara5, Tsukasa Takahashi5, Shotaro Doki5,
Daisuke Hori5, Maral Soronzonbold1, Satoshi Uchida1, Toshiya Hayashida1, Reem Al Assaad1, Hotaka Tsukada1,
Asako Matsuura1,6, Mami Ishitsuka1,7, Kei Muroi8, Yu Ikeda9, Tadashi Murai10, Ichiyo Matsuzaki5,11

1Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba, 2Japan Aerospace Exploration Agency, 3Institute of Medicine, University of Tsukuba, 4Shibuyagawa Clinic, 6Faculty of Health Science, Toho University, 7International University of Health and Welfare School of Nursing at Narita Department of nursing, 9DAIWA HOUSE INDUSTRY CO., LTD., 10Nuclear Fuel Cycle Engineering Laboratories, 11International Institute for Integrative Sleep Medicine, University of Tsukuba.

【目的】 本報告は,SIRIUS(Scientific International Research In Unique Terrestrial Station)において行った精神心理シミュレーション試験の結果第二報である。SIRIUSは,2017年にロシア科学アカデミー生物医学研究所(IBMP)とNASAとの共同で始まったプロジェクトであり,宇宙飛行士の心身の健康を守るための評価手法や技術の開発に向けて研究を行っている。2021年度に実施したSIRIUS-21では,ロシアの閉鎖環境において長期間の月面ミッションを想定した240日間の閉鎖実験を実施した。
 当研究室では,閉鎖環境が及ぼす心理社会的影響についての客観的な評価手法を検討することを目的に,4つの精神心理シミュレーション試験を実施した。本研究は,閉鎖空間で長期間生活することによる人間関係の変化を明らかにすることを目的とし,集団の関係性についての分析方法であるSociometric testを用いて,各クルー間の関係性の変化について考察した。
 【方法】 SIRIUS-21への参加に同意し選抜された男女各3名の計6名を対象とした。入室33日目に女性1名が怪我により退室し,その後は5名で継続した。
 参加者全員に対し,閉鎖実験施設への入室前1回(入室の17日前),入室中4回(50日目,99日目,150日目,198日目),退室後1回(退室後13日目)の計6回,Sociometric testを実施した。Sociometric test とは,作業遂行時・プライベート時のそれぞれにおいて「誰といたいか(選択)」,「誰といたくないか(排斥)」を質問紙で回答してもらうテストである。回答はSociogramという図に示される。
 【結果】 入室前と入室後1回目ではSociogramの形が大きく変化した。特に入室前の作業遂行時のSociogramでは,クルーのほとんどがお互いに選択し合っていたのに対し,入室後1回目の作業遂行時のSociogramでは,相互に選択し合うクルーは極端に減少し,一方向の選択,または選択自体の減少がみられた。入室前と入室後1回目のプライベート時のSociogramについては,一方向の選択が多かった入室前に対し,入室後1回目はやや相互選択が増えていた。
 入室後2回目以降については,作業遂行時とプライベート時のSociogramの形が類似していた。特定の1組のクルーについては時間の経過により関係性の悪化が見られたものの,それ以外のクルーの関係性に大きな変化はみられなかった。
 【考察】 入室前から入室後1回目は関係性の変化が著しかったことに対し,入室後2回目以降は作業遂行時・プライベート時に限らず同じような形をとっていた。職場と生活空間が近いことにより仕事とプライベートを分けることが難しくなることで,同じメンバー間での交流が続き対立が生まれやすくなることが報告されている(Palinkas & Suedfeld, 2007)。本研究においても,長期間閉鎖空間において共同生活を行ったことで,作業遂行時とプライベート時という2つの場面における人間関係を切り分けることが難しくなった可能性が考えられる。