1.　人を対象とする宇宙医学研究の倫理審査と国際動向|International Trends in Human Research in Space and Ethics Review Process

一般演題 1

1.　人を対象とする宇宙医学研究の倫理審査と国際動向

松﨑　友美，松本　暁子

宇宙航空研究開発機構　有人宇宙技術部門

International Trends in Human Research in Space and Ethics Review Process

Yumi Matsuzaki, Akiko Matsumoto

Human Spaceflight Technology Directorate, Japan Aerospace Exploration Agency

宇宙航空研究開発機構（JAXA）に設置されている「人を対象とする研究開発に関する倫理審査委員会（以下，「JAXA倫理委員会」）においては，国が定める ① 人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針に従う研究の他に，② 国際宇宙ステーション（International Space Station:ISS）上で実施されJAXAに所属する宇宙飛行士を対象とする研究の審査を行っている。② に分類される研究は，海外の研究者が各国の実施基準に基づいて実施する研究であり，JAXA倫理委員会及び海外宇宙機関（NASA，ESA，CSA，ロシア宇宙庁）の倫理委員会における審査・承認を受けた後，ISS計画に基づき設置された5極の宇宙機関による人対象医学研究の国際審査委員会（HRMRB:Human Research Multilateral Review Board）での審査・承認を受け，軌道上での実施が認められる。
　本調査では，2020年度～2022年度の3年間にJAXA倫理委員会において審査された研究課題及び海外機関の公開研究情報を調査し，宇宙医学研究の最近の動向について考察した。
　【対象】　2020年度，2021年度，2022年度の3年間における，ISS（米国セグメント）上で実施される宇宙飛行士を対象とする医学研究
　【調査方法】　海外宇宙機関や研究機関のホームページ等に掲載されている公開情報及びJAXA倫理委員会の審査情報を元に，各宇宙機関における研究課題の件数を集計した上で研究分野を分類し，動向を調査した。なお，本調査はJAXA倫理委員会の支援を得て行った。
　【結果及び考察】　JAXA倫理委員会が審査した研究課題の件数について，2020年度は，JAXA:19件（研究計画の改訂審査や更新審査を含む。内，新規0件。以下同様），NASA:46件（新規12件），ESA:17件（新規11件），CSA:14件（新規3件）であった。2021年度は，JAXA:20件（新規0件），NASA:36件（新規4件），ESA:24件（新規12件），CSA:10件（新規0件）であった。2022年度は，JAXA:21件（新規0件），NASA:37件（新規2件），ESA:27件（新規10件），CSA:8件（新規2件）であった。
　本調査においては，さらに分野別（神経科学・睡眠・精神系，骨・筋・運動系，免疫系・感染症，循環器系，SANS関連，総合計測）に分類し，近年の宇宙医学研究の国際動向について考察した。新規研究を年度別で分類すると，骨・筋・運動系と網羅的に計測する研究が多く，近年では循環器系の研究が増加していた。新規研究を機関別にみると，NASAは広い分野に渡り研究を立案しており，ESAは骨・筋・運動系の研究が多く，CSAでは循環器系分野の研究が多いことが分かった。月探査などポストISS時代に向けて，各機関が新しい観点で宇宙医学研究を検討しているものと考えられた。将来の有人宇宙活動に向け，今後は日本国内からも新規の研究立案が期待される。