宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 11, 2024

文部科学省・宇宙航空人材教育プログラム

 

I. 長期宇宙滞在者を食と運動で支える専門職の人材育成プログラム

S4-2. 特殊環境栄養学:宇宙食で被災地を救う。被災地から宇宙を創る。

坪山(笠岡)宜代

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国際災害栄養研究室 室長

Program development for professionals who support long-term space residents with food and exercise:Space Nutrition and Disaster Nutrition

Nobuyo Tsuboyama-Kasaoka

Section of Global Disaster Nutrition, International Center for Nutrition and Information, Natinal Institute Health and Nutrition, National Institutes of Biomedical Innovation, Health and Nutrition

宇宙環境は,ガスや電気などのライフラインが限られている。また,宇宙での生活は長期間,閉鎖空間で生活することから,ストレスも非常に大きい。一方,地上の被災地での生活もライフラインが限られている。また,避難所の生活は集団生活であり,ストレスも多く蓄積する。このように,環境が似ている宇宙と災害時では,食事にも沢山の共通点があることが分かった。JAXA が認証している「宇宙日本食」と日本災害食学会が認証している「日本災害食」の認証基準を比較検討したところ,常温で保存できること,衛生管理が十分に行われていること,強靭な包装容器であること,簡単にたべられること等に共通点が認められた。
 これらのことから,災害時等の特殊環境の食・栄養に関するエビデンスやノウハウは,宇宙環境における食環境整備に有用であると考えられている。我々が2023年4月にスタートさせた宇宙で食・栄養支援を実施する専門職の育成においても,教育プログラムの中に災害栄養の知見が反映されている。
 2040 年代に月面滞在者 1,000 人を目指して,現在,様々な取り組みが進められており,それらは災害栄養の知見が活かされている。最新の情報をご紹介したい。

 Tsuboyama-Kasaoka N, Hamanaka K, Kikuchi Y, Nakazawa T. Similarities between Disaster Food and Space Food. J Nutr Sci Vitaminol. 2022;68(5):460-469.