宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 10, 2024

文部科学省・宇宙航空人材教育プログラム

 

I. 長期宇宙滞在者を食と運動で支える専門職の人材育成プログラム

S4-1. 3施設で構成する長期宇宙滞在者を食と運動で支える専門職の人材育成プロジェクト

三上 靖夫

京都府立医科大学大学院 リハビリテーション医学

A human resource development project consisting of three facilities to support long-term space residents with food and exercise

Yasuo Mikami

Department of Rehabilitation Medicine, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine

宇宙大航海時代を迎え,人類が長期にわたって宇宙で安心・安全に活動するためには,宇宙環境に適した「食」と「運動(リハビリテーション)」を通した健康管理が必須である。しかし,我が国だけで無く先進国においても食を通して宇宙飛行士の健康管理できるプロフェッショナルはほとんどいない。そこで,令和3年度から文部科学省宇宙航空科学技術推進委託費を受けて,大学の学位制度と学会の専門医療人認定制度を合理的に合体させ,革新的な“宇宙医学の専門職”を育成することを目的としたプログラムの構築を進めている。
 宇宙での栄養・食について研究し,宇宙実験にも参画してきた徳島大学医学部 医科栄養学科・生体栄養学分野の二川 健教授を中心とし,同大学と国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所,京都府立医大学の3施設で協定を締結して意欲的にプロジェクトに取り組んでいる。宇宙においても栄養と運動は健康に生きていくための両輪となる。そこでまず,徳島大学と京都府立医科大学で,それぞれ管理栄養士とリハビリテーション専門職が学べる修士課程のコースを作ることに着手した。徳島大学に,宇宙での栄養とリハビリテーション医学について,各方面に精通した多彩な講師が講義コンテンツを作成し,オンデマンドで45コマの講義を聴講するシステムを構築し,今春修士課程に入学した学生が聴講を開始している。
 さらに,今年度は8月にJAXAのつくば宇宙センターで研修を行った。11月には日仏宇宙栄養学/医学シンポジウムを京都市で開催し学びを深める予定である。一方,大学院のコースの設置と並行して大学院で学んだのち,宇宙医学の専門職として認定する制度の立ち上げを進めており,各方面と調整中である。
 臥床状態が宇宙空間での微小重力環境に近く,宇宙空間に滞在したときに身体に生じる変化は,臥床状態が続いたときに生じる変化に近似することが知られている。身体活動を重視するリハビリテーション医学と宇宙医学の接点がここにある。宇宙空間滞在中および地上帰還後に健康に暮らすためには,宇宙で効率良い運動プログラムを確立する必要がある。さらに,宇宙で有用な運動プログラムは地上での生活不活発病の予防や治療にも応用可能であり,リハビリテーション治療にも有益なものとなる。微小重力環境で,効率的に筋力強化と有酸素運動を行える方法として,電気刺激装置を用いた運動に着目している。宇宙医学の場で活躍するリハビリテーション専門職の育成の上で,これらについての研究を大学院で展開してもらうべく,準備をおこなっている。