宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 5, 2024

若手の会シンポジウム

 

宇宙×産業衛生

S2-2. ロケット打上げ事業における産業保健活動 〜種子島での活動から〜

石川 浩二

三菱重工業(株) 大江西健康管理チーム

Occupational health activities at the rocket launch site ─ Introducing activities on Tanegashima ─

Koji Ishikawa

Oye-nishi Health Section, Mitsubishi Heavy Industries, LTD.

【背景】 弊社は,ロケットの本体,エンジンなどその多くの部品製造を長年担当してきた。その過程で,それまで国(当時NASDA)が担っていたロケット打上げ事業が,国産大型液体ロケットのH-II Aロケット13号機から民営化され,弊社がその打上げ事業全体を担当することとなった。それに伴い,産業医,保健師も,現地でのロケット打上げ事業に医療支援として関与することになった。
 【ロケット打上げ事業の実際】 主に愛知県の弊社工場で製造された大型液体ロケットH-II A,H3ロケットの本体,他数多くの部品は,海路を経て種子島宇宙センターへ運搬される。その後,弊社はじめ,関係各社の従業員が,最終組立,打上げ作業に従事する。その業務は決して失敗は許されない,という緊張下での作業となっている。また量産事業でないため,非定常作業となったり,不規則勤務になったりすることも少なくなく,量的にも質的にも大きなストレス状況下での作業となる。一方で,国内他社には類のない国家事業でもあることから,魅力的で,かつ打上げ成功時の職務満足感,達成感も非常に大きいことから,そのバランスが保たれていると思われる。
 【医療支援の内容】 ロケット打上げ直前,直後は,騒音,振動,有害ガス,爆発,その他多くのリスクを伴うことから,打上げの射点から半径3 km以内は立ち入り禁止となる。しかし最終打上げ作業に携わる従業員は,H-IIAロケット打上げ時,可能な限り近くにいることが求められ,射点から500 mほどの距離にある,地下5階ほどの深さの建物内で従事する。そこで,彼ら彼女らの体調急変時への救急対応に備えるため,医師が常駐することになり,H-IIA 13号機以後,弊社産業医がその任務を担当することになった。
 また,そこでの体調不良者発生のリスクを最小限に抑えるため,ロケット打上げ予定日の約1週間前から産業医と保健師がペアとなって種子島入りし,その最終打上げ作業の従事予定者の健康診断を行う。その健康診断においては,最終打上げ作業への従事の可否判定に加え,健康指導などの支援を行う。さらに,上述の通り,打上げ事業関係者は体調を崩しやすい環境にあるため,体調不良者への対応,および,感染症対策などの支援も行う。
 当日は,これらロケット打上げ事業への産業医の関わりに加え,2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的な流行下での活動なども紹介したい。