宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 4, 2024

宇宙惑星居住科学連合シンポジウム

S1-4. 京都大学における宇宙教育活動のご紹介

寺田 昌弘

京都大学宇宙総合学研究ユニット

Introduction of the space medicine educational program in Kyoto University

Masahiro Terada

Unit of Synergetic Studies for Space, Kyoto University

宇宙研究は広い分野にまたがる高度な工学,理学,その他の学問領域の有機的連携を必要とする総合科学である。 特に近年,人類の宇宙空間の利用が進むにつれ,宇宙に関係する分野は環境・エネルギー科学, 医学・生命科学,情報科学,さらには人文社会系学問にまで広がっている。幅広い分野で活躍できる人材を育成するため, 学際的,総合的な新しい宇宙研究を開拓することが重要である。そこで,京都大学では部局の枠を超えた「宇宙総合学」の構築を目指して,2008年に宇宙総合学研究ユニット(以下,宇宙ユニット)が設立された。
 これまで宇宙ユニットでは,様々な講義(宇宙総合学,宇宙学,有人宇宙学,宇宙医学など)を実施してきた。またパラボリックフライトを利用した実習やアリゾナ州にある巨大密閉環境施設Biosphere2におけるスペースキャンプなど特徴的な活動を行ってきた。2021年度には文部科学省・宇宙航空科学技術推進委託費事業として「倫理学を基盤とした宇宙人材育成プログラムの開発と実践」(宇宙倫理学教育プログラム),2022年度には同委託費事業「将来の有人宇宙活動を支える宇宙医学人材育成プログラム」(宇宙医学教育プログラム)が開始され,ますます特徴的な教育活動を行っている。
 この2つの委託費事業の内,本発表においては宇宙倫理学教育プログラムを中心にお話しする。人類の宇宙進出が急速に進展しつつある今,それがもたらす様々な影響について倫理的な観点から慎重に検討することの重要性が高まっている。宇宙倫理学は,宇宙進出に伴う諸課題に倫理学の知見を用いて取り組む学問分野である。しかし,宇宙時代の新しい課題は,従来の地球上における倫理学の単なる応用によって解決することはできない。そのため,倫理学そのものを地球外へと拡張することも,宇宙倫理学の重要な特徴の1つである。宇宙ユニットが実施している宇宙倫理学教育プログラムでは,講義と演習,そしてゼミ活動を通じて受講生が倫理学とはどういったもので,宇宙活動においてどのような倫理学的視点が必要なのかを学び,受講生同士のディスカッションを行い,今後の宇宙活動を倫理的観点から考察できる人材の育成を行っている。
 宇宙ユニットでは様々な視点で宇宙開発を支援できる人材育成を行うことを目的に,特徴ある教育プログラムを実施している。これらのプログラムが将来の宇宙開発に大いに貢献できるプログラムとなるように京都大学内外の協力を期待する。