宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 1, 2024

宇宙惑星居住科学連合シンポジウム

S1-1. 有人宇宙活動の世界動向を語る

赤城 弘樹

宇宙航空研究開発機構有人宇宙技術部門事業推進部

Global Trends in Human Spaceflight Activities

Hiroki Akagi

Management and Integration Department, Human Spaceflight Technology Directorate, Japan Aerospace Exploration Agency

世界初の有人宇宙飛行から今年で62年を迎えた。人類による有人宇宙活動は1960年代の米国・旧ソ連による国際競争により技術開発が促進され,1969年には人類初となる月面有人着陸を米国が達成した。その後,1984年に米国からの呼びかけにより国際宇宙ステーション(ISS)計画が発足し,有人宇宙活動は国際協力による取組みへと移り変わった。また現代では宇宙探査の舞台において国際協力と技術競争の両面から有人宇宙活動が展開されつつあり,人類はその活動領域を拡大し続けている。
 我が国は1985年からISS計画に参画し,「きぼう」日本実験棟の開発・運用と「こうのとり」宇宙ステーション補給機(HTV)による物資補給によって,有人滞在・補給技術を獲得しISS計画へ貢献するとともに,ISS利用の成果最大化と国際プレゼンスの維持・向上に努めてきた。2020年にISSは有人継続滞在20周年を迎え,国際協力による有人宇宙活動は地球低軌道を超え,月・火星での持続的な活動を目指し更なる発展を進めている。米国航空宇宙局(NASA)は,「アルテミス計画」と呼ばれる新たな月面探査プログラムを提案し,国際協力とともに多様性を尊重し,国際・商業パートナーと共に月周回有人拠点(ゲートウェイ)や月面拠点建設等,月での人類の持続的な活動を目指している。我が国はゲートウェイ計画への参画を決定し,「きぼう」や「こうのとり」で培った技術・経験を活かし,国際居住棟への居住機能の提供(環境制御・生命維持装置(ECLSS)の開発)等,および開発中の新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)を活用した物資補給による貢献を目指している。また「すべての活動は平和目的のために行われる」ことなどをはじめとした,アルテミス合意には28か国が署名しており,これから新たな形での国際協力による宇宙探査が期待されている。一方,地球低軌道ではISSで得られた技術・知見を社会へ還元し,将来の持続的な経済活動の場となるよう,各国において民間企業の参画拡大や活動支援に向けた取組みが積極的に行われている。ISS退役後には民間主体の活動の場として,地球低軌道へ商業宇宙ステーションが設立される構想があり,新たな有人宇宙活動における官民連携や国際協力の形について議論されている。
 本講演では,有人宇宙活動の過去と現在を振り返るとともに,将来の有人宇宙活動について商業活動を含む世界の動向を紹介する。