宇宙航空環境医学 Vol. 60, No. 2, 108-109, 2023

ニュースレター

(2)第68回大会を終えて:学生企画セッションの企画と実行

石橋 拓真

東京大学 医学部医学科 6年

この度は,このような場に寄稿させていただく機会を頂き,誠にありがとうございます。私の所属するSpace Medicine Japan Youth Communityは,2022年11月24日に開催されました第68回大会に於きまして学生企画セッションを開催させていただきましたので,ここにご報告させていただきます。
 宇宙医学に関心のある学生のコミュニティとして2017年に発足したSpace Medicine Japan Youth Community(以下,SMJYC)は,徐々に拡大を続け,現在メンバー数は340人に上ります。2022年夏には対面でのスタディツアーも復活し,有志の分科会も複数誕生しました。その総括として今大会では,学生セッションを前後半に分けて実施いたしました。
 前半は大阪公立大の黒松俊吾君を座長として,「若手の考える『航空宇宙医学のこれから』」と題し,3演題を行わせていただきました。
 まず1演題目は,京大の斉藤良佳さんより,SMJYCの活動報告を行いました。月毎のオンライン講演会などの「先生方から学ぶ企画」,論文抄読会などの「学生が自ら学ぶ企画」,そして学生たちが自らの経験を共有する「コミュニティ・ハブとしての機能」という3点から,1年間の報告のみならず「コロナ禍を通じての変化」をご報告させていただきました。
 次いで2演題目では,東大法学部/経済学部の学生を中心とした有志団体「白椿会」と実施した「宇宙医学と政策・ビジネス」についての合同勉強会の議論の成果を,横浜市大医学部の岩瀬すみれさん,慶應大薬学部の市原彩夏さん,東京大工学部の松岡夏輝君から発表させていただきました。
 そして3演題目では,京都大の植村優香さん,奈良県立医大の下結香さん,筑波大の三垣和歌子さん,京大の斉藤良佳さんから,宇宙医学・宇宙開発におけるジェンダーの偏りについて発表させていただきました。SMJYCなど学生のセクターでは男女比が半々であるのに対して企業・アカデミアのセクターでは女性比率が2割ほどと非常に低くなっている要因を,学会員の皆様へのヒアリングなどから探る試みでした。
 後半は私石橋が座長を務め,「地球低軌道の商業化による,宇宙実験の多様化」というテーマで,3つの招待講演を実施しました。SpaceX社,Axiom Space社,Sierra Space社など民間企業が推進する「ポストISS」の民間宇宙ステーションが,宇宙医学研究にどのようなインパクトをもたらしうるのか,という大テーマのもと,Dr. Dorit Donoviel(Baylor College of Medicine, TRISH)からは NASA の関与しない純民間ミッションにおける医学実験のあり方について,井上実沙規様(三井物産エアロスペース)からは ISS の民間活用拡大と将来の日の丸モジュールについて,そして廣瀬裕介様(兼松株式会社)からは実験サンプルの日本への直接回収について,それぞれ異なった視点・時間軸からお話をいただきました。
 学生企画であるにも関わらず前後半合わせて2時間半という長大な時間を頂き,このようなセッションを開催させていただけたことに,心より感謝申し上げます。昨年までは学会に向けて一から企画を作成することが多かったのに対し,今回は元々活動していた有志勉強会からの要望で,その発表の場を設けさせていただく形で企画が進んだという点でこれまで以上に学生主体のセッションとなりました。その内容も異分野との横の連携や,今後キャリアを歩む上での重要テーマに,果敢かつ真摯に向き合うものであり,「学生だからこそできる活動」への手応えが感じられる企画を実施できたのではないかと思います。
 一方で,今回の一般演題での学生の発表は4演題に留まり,昨年より大幅に減少してしまいました。越境的・分野横断的な取り組みもさることながら,最も重要な柱である学術面での学生活動をいかに活性化していけるか,今後の課題と捉えております。
 最後に,貴重な機会を与えてくださいました第68回大会長の野村泰之先生,及びお世話になった諸先生方に厚くお礼申し上げます。ありがとうございました。