宇宙航空環境医学 Vol. 60, No. 1, 17, 2023
学生企画セッション
招待講演 : 地球低軌道の商業化による宇宙実験の多様性
商業宇宙ステーション幕開けに伴う宇宙環境利用と大分宇宙港を利用したダイレクトサンプルリターンの将来展望
高田 敦
兼松株式会社
The Orbital Age - Commercial Space Station and its utilization and direct sample return from the LEO destinations to Oita spaceport
Atsushi Takata
Kanematsu Corporation
【背景と目的】 民間企業による有人宇宙開発が本格化する中,そのフィールドは「輸送」のみならず「滞在」にまで広がろうとしており,地球低軌道の商業化・経済圏化は日進月歩で進んでいる。その一つの柱が民間企業による低軌道ステーションの建造・運営であり,様々な科学実験・製品開発・宇宙旅行などの拠点となることが期待される。
兼松株式会社は航空宇宙事業での実績豊富な総合商社であり,現在商用宇宙ステーションの開発を進める米国のSierra Space社と提携している。
2022年2月には,同社の開発する無人宇宙往還機Dream Chaserのアジア拠点として大分空港を活用するための検討を進めるパートナーシップと,大分県との3者で締結した。Dream Chaserは国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送ミッションに向けて準備を進めており,大分空港での着陸が実現すれば,ISSでの実験サンプルを日本に直接帰還させることが可能となる。
さらに同社は米Blue Origin社,米Boeing社などと提携して独自の商用宇宙ステーション「Orbital Reef」の開発を進めており,2027年の打上げを目指している。同ステーションはポストISS時代の宇宙実験の主要拠点として重要な役割を担うことが期待されており,その活用方法がすでに模索され始めている。ステーションの開発に際してはアリゾナ大学なども巻き込んだコンソーシアムが形成されており,国際的なパートナーシップも今後始まってくる予定である。
さらに現在同社は,地球低軌道の微小重力環境下で事業や製品を進化・前進させられるスタートアップや起業家,研究者や学生を募るコンペ「Reef Starter Innovation Challenge」を主催しており,世界中からの幅広いアイデアを募っている。
また,Sierra Space社は,NASAの宇宙飛行士訓練の民営化に対応するため,2023年にフロリダに宇宙飛行士養成所を開校する。トップにNASA宇宙飛行士のJanet Kavandi氏が就任することが決まっている。
本発表ではこうした「ISSの民間利活用」および「ポストISS」における新たな動きをご紹介するとともに,それらが航空宇宙医学にもたらしうるインパクトに言及したい。