宇宙航空環境医学 Vol. 60, No. 1, 16, 2023
学生企画セッション
招待講演 : 地球低軌道の商業化による宇宙実験の多様性
民間宇宙ステーションの可能性と宇宙医学・生物学における意義
井上 実沙規
三井物産エアロスペース
The Potential of Commercial Space Station and its Significance in Space Medicine and Biology
Misaki Inoue
Mitsui Bussan Aerospace (MBA)
【背景と目的】 SpaceX社のCrew Dragonによる国際宇宙ステーションへの有人輸送や,Virgin Galactic社・Blue Origin社によるサブオービタル飛行が本格稼働する中で,国際宇宙ステーション(ISS)の退役後を見据えた民間宇宙ステーションの開発の動きも加速している。それに伴い,新たなステーションの開発のみならず,現行のISSにおける民間活動も世界的に拡大傾向にある。
三井物産エアロスペース株式会社(MBA)は,ヘリコプターや航空機・宇宙・防衛関連機器の輸入販売及び関連サービスの提供を行う航空宇宙分野の専門商社であり,近年ではISSからの超小型衛星放出サービスも手がけている。2021年に米Axiom Space社(Axiom Space)との戦略的パートナーシップを締結し,市場調査や顧客開拓を通じ,将来の地球低軌道経済圏に於ける事業創出を促進している。Axiom SpaceはISSの現行運用終了後を見据えた,民間企業がISS後継機を建設し運用する「民間宇宙ステーションの時代(Post ISS)」に向けた独自ステーションの開発をいち早く開始しており,2022年4月には史上初の民間企業によるISS滞在ミッション「Ax-1」を実施するなど,NASAとの緊密な協力関係のもとISSの民間運用移行に大きく貢献している。
MBAは,Axiom Spaceとの戦略的パートナーシップを通じ,民間宇宙ステーションの商業利用のみならず,現存するISSの日本実験棟,欧州・米国実験棟での実験実施機会を日本の研究者・企業向けに紹介している。これまで主に米国の研究者・企業のみに開かれていた欧州・米国実験棟の豊富な実験設備の活用機会は,民間への運用移行により国籍の壁が少しずつ取り払われ,よりオープンな科学実験・製品開発プラットフォームとして宇宙ステーションが活用されることが期待される。それに伴って,今まで以上に多様な医学・生物学実験を微小重力環境で実施する可能性が開かれるものと思われる。
本発表では,こうした目下の「宇宙ステーションの商業利用サービス」の取り組みについてご紹介するとともに,そうした新たな取り組みによる宇宙医学・生物学における新しい取り組みの可能性,さらにはPost ISSを見据えた日本のプラットフォーム構想等についてご紹介し,地球低軌道に於ける新たな経済活動を生むエコシステムを産官学で協働して築いていくためのディスカッションの端緒としたいと考える。