宇宙航空環境医学 Vol. 60, No. 1, 13, 2023
学生企画セッション
若手の考える「航空宇宙医学のこれから」
政策・ビジネスの観点から捉える宇宙医学
岩瀬 すみれ1,4,市原 彩夏2,4,松岡 夏輝3,5
1横浜市立大学 医学部
2慶應義塾大学 薬学部
3東京大学 工学部
4 Space Medicine Japan Youth Community
5 Hakushunkai
Space Medicine in the view of politics and business
Sumire Iwase 1, Ayaka Ichihara 2,4, Natsuki Matsuoka 3,5
1 Yokohama City University
2 Keio University Faculry of Pharmacy
3 Faclty of Engineering the University of Tokyo
4 Space Medicine Japan Youth Community
5 Hakushunkai
【背景と目的】 有人宇宙開発は,民間企業が主導となり,再び活況を迎えている。
これまで宇宙医学は,基礎医学的意義を主軸として,地上の医学への潜在的な応用可能性の文脈で研究費が獲得されることが多かったため,財源の多くは文部科学省であった。しかし,民間主導の有人宇宙開発は,宇宙医学分野の知見が求められる領域の拡大も同時に意味する。貢献する先が多様になれば,民間企業も含めて,今まで以上に多様な研究費の財源が想定できる。
一方,私たちSpace Medicine Japan Youth Community(SMJYC)のメンバーはこれまで異分野の学生たちとの交流の中で,宇宙医学と他分野との距離を度々感じてきた。宇宙医学は「宇宙=高尚遠大」と「医学=専門外で理解しがたい」の掛け合わせ,「理解できず身近でもない領域」として認識されている側面が大きく,またそれは私たちの自己認識にも反映されている。
しかし,研究活動を行うにあたって資金拠出を割り振るのは,省庁や民間の財団など「当該分野を専門としない組織や人々」である場合が多い。前述の自己認識は,そうした「専門外の方々とのコミュニケーション」を阻むものであり,改めていくべきと私たちは考えた。
この問題意識に基づき,SMJYCは2021年10月に 「白椿会」との合同勉強会を実施した。白椿会は,官僚や起業家,政治家,エンジニアなど様々な志向性を持った学生たちが集う有志団体である。政治制度から技術政策まで幅広いトピックの分科会を設け,日本の今後の論点を政策やビジネスの観点から議論する勉強会を開催している。
20人ほどが参加した2時間の勉強会では,SMJYCメンバーが宇宙医学分野の概要を簡単に説明した上で,「国として宇宙医学分野になぜ投資すべきか?」というテーマでグループワークを実施した。ワークでは,基礎研究的意義のみならず,「地上の医療ニーズへの解決策」や「新たな交通インフラとしての宇宙開発の基盤」になる,という文脈での宇宙医学の意義や方向性が,様々な角度から模索された。その中で,これまでにはなかった新しい形の研究資金獲得のあり方の可能性も示唆された。
その後,SMJYCと白椿会の有志により,グループワークで提案されたアイデアから,日本の政策とビジネスにとってメリットとなる宇宙医学の側面を,時間軸や市場規模などの切り口で再び整理し,描き出した。そして,日本の政策やビジネスの視点を意識した「アプローチ・ポイント」となる要素を抽出し,それらのポイントが「政策・ビジネスの視点から捉えた宇宙医学の伝え方」という大きな枠組みへ体系化できるかを検討した。
本発表ではグループワークでのアイデアをご紹介するとともに,その後の上記の検討結果と合わせ,今後宇宙医学がより幅広い領域に貢献していくための議論の端緒を,学生の視点から提供する。