宇宙航空環境医学 Vol. 60, No. 1, 11, 2023

若手の会シンポジウム

宇宙飛行士に対するリハビリ支援の経験から未来を考える

門馬 博

杏林大学 保健学部 理学療法学科/宇宙航空研究開発機構

Thinking about future through the experience of rehabilitation support for astronauts

Hiroshi Momma

Department of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Kyorin University / Japan Aerospace Exploration Agency

2021年は日本人宇宙飛行士2名が連続して国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在ミッションに臨むという,日本の有人宇宙開発において大きな1年となった。筆者は星出彰彦宇宙飛行士のISS長期滞在ミッションにおいて,理学療法士として地球帰還後のリハビリテーションにかかわる機会を得た。JAXA宇宙飛行士の地球帰還後のリハビリテーションに理学療法士が関わるということは歴史上初めてのことであったが,筋力の維持・改善,全身持久力の維持・改善といった側面はもちろん,転倒予防等のリスク管理,重力への再適応の中で生じる疼痛や関節可動域の低下等への対応など,理学療法士の専門性は宇宙から帰還した後のリハビリテーションに十分活かすことができるものであると感じている。
 一方で2021年は民間企業による宇宙旅行が本格的に稼働し始めた年として,“宇宙旅行元年”とも言われている。まだまだ旅行に要する費用は高額であるが,少しずつ宇宙が誰でも行ける場所に近づきつつあることは間違いない。今後,人類が更に宇宙環境に進出していくためには建設業などをはじめとした様々な職種も宇宙環境で活動していくことが予想される。宇宙で働く人々が増えれば,その人たちを支える仕事が必要となってくる。前述の旅行者はごく短い期間であれば筋力の低下等に対する介入は不要かもしれない。一方,宇宙で働くとなれば長期間の生活が必要となり,健康維持という観点で生理的対策は非常に重要となる。
 本講演では理学療法士の専門性と宇宙飛行士の健康管理業務について,帰還後リハビリテーション業務の経験をふまえつつ概説し,今後さらに多くの人類が宇宙に進出する上で考えられる課題とその対応について,理学療法士の視点だけでなく様々な視点から参加される皆さんと考えていきたい。