宇宙航空環境医学 Vol. 60, No. 1, 10, 2023
シンポジウム 2
コロナ禍の航空医学
航空機の空調システム
岩永 靖夫
株式会社JALエンジニアリング 技術部システム技術室機装技術グループ
Air Conditioning System equipped on the Airplane
Yasuo Iwanaga
Aircraft System Group, Engineering Department, JAL Engineering Co., Ltd
空気の薄い高高度を飛行する航空機において,乗客・乗員が安全かつ快適に機内で過ごすために,航空機の空調システムは主に温度調整・与圧調整を目的として装備されているが,その空調システムが飛沫・空気感染防止に効果があると言える。その理由としては3つある。
1つ目の理由としては,客室内の空気は「機体前後方向の流れの少ない上から下への流れ」となっていることである。航空機の空調システムから供給される空気は,天井付近に設けられた送風口から客室内に供給される。客室内を流れた空気は客室内の横の壁の下側に設けられた排出口を通り床下に流れ,床下に流れた空気のおよそ半分が胴体下部にある圧力調整バルブから機外に排出される。また,航空機はできる限り,どの胴体断面を切っても均一な空気の流れとなるように設計されており,客室内の区画ごとの温度調整が可能となるよう各区画の空気流量のバランスが調整され,機体の前後方向での流れが発生しにくいようになっている。
2つ目の理由としては,空調システムを通して航空機内へは「新鮮な空気が常に大量に供給され頻繁に入れ替わっている」ことである。巡行中のボーイング787型機においては一人当たり毎分250L以上の空気が客室内に供給されており,機体の容積をふまえるとおおむね2〜3分で空気が入れ替わっている。また,客室内を流れた空気の一部は高性能空気フィルタにて濾過され,再度客室内に供給されているため,客室内の空気の淀み・滞留を減らし,空気の入れ替えを促進している。
3つ目の理由としては,「高性能空気フィルタによって空気の濾過がされている」ことである。既述のとおり,客室内から排出された空気の一部は高性能空気フィルタにて空気の濾過がされた後,客室内に再循環されており,当該高性能空気フィルタは0.3 μmサイズの粒子の99.97%以上を捕集する性能を有している。
上記3つ理由により航空機の空調システムが,ウイルスの飛沫・空気感染の防止に役立っていると言える。