宇宙航空環境医学 Vol. 60, No. 1, 8, 2023

ビスホスホネートは宇宙長期滞在に伴う尿路結石形成リスクを軽減する

岡田　淳志¹，松本　俊夫²，磯村　達也³，古賀　正⁴，安井　孝周¹，郡　健二郎¹，大島　博⁵

¹名古屋市立大学大学院医学研究科　腎・泌尿器科学分野
²徳島大学藤井節郎記念医科学センター
³順天堂大学大学院医学研究科 リアルワールドエビデンス評価研究講座
⁴聖マリアンナ医科大学薬理学
⁵宇宙航空研究開発機構 （JAXA）

Bisphosphonates reduce the risk of urinary stone formation during long-term spaceflight

Atsushi Okada ¹, Toshio Matsumoto ², Tatsuya Isomura ³, Tadashi Koga ⁴, Takahiro Yasui ¹, Kenjiro Kohri ¹, Hiroshi Ohshima ⁵

¹ Department of Nephro-urology, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, Nagoya, Japan
² Fujii Memorial Institute of Medical Sciences, Tokushima University, Tokushima, Japan
³ Real-World Evidence And Data Assessment （READS）, Graduate School of Medicine, Juntendo University, Tokyo, Japan
⁴ Department of Pharmacology, St. Marianna University School of Medicine, Kawasaki, Japan
⁵ Japan Aerospace Exploration Agency, Tsukuba, Japan

【目的】　宇宙空間では，骨粗鬆症の約10倍の速さで骨量が減少し，それに伴う尿中カルシウム排泄の増加によって尿路結石形成リスクが増大すると考えられている。これまでに私たちは，90日間国際ベッドレスト研究に参加し，骨吸収抑制薬ビスホスホネート（BP）が骨量減少と尿路結石形成を抑制することを報告してきた。この成果をうけ，本研究では宇宙航空研究開発機構 （JAXA）とアメリカ航空宇宙局（NASA）の共同研究として，国際宇宙ステーション（ISS）に6ヶ月間搭乗した宇宙飛行士に対しBPを予防的に投与することで，長期宇宙飛行に伴う骨塩減少ならびに尿路結石形成リスクを軽減できるかについて検討した。
　【方法】　17名の宇宙飛行士が本研究に参加し，全員が改良型抵抗運動機器（advanced resistive exercise devise: ARED）を用いて運動を行った。これらの参加者を，AREDを用いた抵抗運動のみを行うARED群10名と，AREDを用いた抵抗運動にBP製剤アレンドロン酸（ALN）70 mgを週1回服用するARED+ALN群7名とに分けた。評価項目は，フライト前後の腹部超音波検査による結石の存在診断，骨密度評価（DXA，pQCT），24時間蓄尿検査による骨吸収マーカー （NTX, HP），尿中結石関連因子 （促進因子:カルシウム（Ca）・リン（P）・シュウ酸（Ox）・尿酸（UA），抑制因子:マグネシウム（Mg）・クエン酸（Cit））の排泄量を宇宙飛行前・飛行中・飛行後で比較した。また結石成分ごとのリスク指標となる尿中過飽和度（relative supersaturation: RSS）を算出して同様に比較した。
　【結果】　腹部超音波検査で検出された石灰化は，両群で増加・増大を認めなかった。尿中NTXおよびHPは，宇宙飛行中ARED群で有意に増加したが，ARED+ALN群で減少した。尿中Caは，宇宙飛行開始後 ARED群では急速に増加したが，ARED+ALN群では減少した。尿中OxとUAの排泄は，宇宙飛行中にARED群がARED+ALN群よりも有意に高値を示した。またシュウ酸カルシウムとリン酸カルシウムのRSSは，宇宙飛行開始に伴いARED群で有意に増加し，地球帰還後にベースラインに戻った。
　【考察】　ISSに登場する宇宙飛行士において，AREDを用いた抵抗運動群では尿中NTX・HPの排泄の増加を認めたことから，骨吸収を十分に抑制できないと考えられた。これに対し，BP投与群では骨密度・骨強度が維持され，尿中NTX・HPの排泄が有意に抑制されたことから，BPが宇宙空間での骨塩対策に有効であることが示された。また抵抗運動群では，尿中Ca排泄に加え尿中Ox・UA排泄が増加傾向を示し，BP投与群ではこれらの排泄が抑制された。このことから，宇宙空間での尿路結石リスクとして，これまで考えられてきた骨由来の尿中Ca排泄の増加のみではなく，骨I型コラーゲン由来のOx・UAの尿中排泄の増加が新たな因子として初めて見いだされ，BP投与はこの機序をも抑制できると考えられた。
　【結論】　長期間の宇宙飛行における抵抗運動とBPの併用は，骨吸収の抑制を通じ尿路結石形成リスクを効果的に予防できる可能性が示された。

　本発表は，著者らの公表済み論文から本シンポジウム向けに再構成したものである。