宇宙航空環境医学 Vol. 60, No. 1, 2, 2023

特別講演

月に住んでみたいと思いませんか?―宇宙滞在技術の高度化と社会実装の促進―

向井 千秋

東京理科大学 副学長

Would you like to live on the moon ? Advancement of habitation technology in space

Chiaki Mukai

Tokyo University of Science

1961年にガガーリンが人類初の宇宙飛行をしてから半世紀以上が経つ。人類は地球低軌道での有人宇宙技術(ロケット技術,宇宙滞在技術,地球への帰還技術)をもとに,国際宇宙ステーションでの成果や知見を集積してきている。また,1969年のアポロ11号月着陸からは50年余,今や地球低軌道以遠の月や火星を目指した月軌道プラットフォームゲートウェイ計画やアルテミス計画が始動している。宇宙商業利用も促進され一般人の宇宙旅行が実現しつつある時代を迎えている。一方,住処としての地球やその資源は有限で,また,気候変動に誘発される自然災害の増加や新型コロナウイルスのパンデミック感染,そして,分断・孤立・格差社会による都市構造や人間社会の脆弱化など,現代の社会課題は単一ではなく複合的で,人類全体が協力して解決すべき課題に発展してきている。さらに,社会課題解決の担い手である青少年が,夢や希望をもって未来を開拓する意欲を育成しにくい社会環境ともいえる。このような時代に未来を見据えて宇宙居住をモデルとした包括的で総合的な研究を推進することは,地球・月での持続可能な社会基盤構築や社会課題解決に貢献するのみでなく,青少年・若手研究者・技術者が未来開拓への意欲を育成できる研究・教育環境を創出するうえでも重要と思われる。
 東京理科大学のスペース・コロニー研究は,「宇宙滞在技術の高度化と社会実装」を促進することで,本学が有する人工衛星の部品開発,機能性材料,創エネルギー,建築,IoT・センサー等の各技術を結集し,人類のフロンティアである宇宙の極限的閉鎖環境において人間が長期間滞在するために必要な技術の研究開発を行っている。その内容は,スペースアグリ技術,創・蓄エネルギー技術,水・空気再生技術,スペースQOLデザインなどである。開発目標指標として国連のSDGsを利用し,より先を見据えた技術開発を実現しつつ,地球上の諸問題解決に貢献するというもので,宇宙と地球のそれぞれの環境におけるDual開発である。
 多くの宇宙飛行士たちが地球を目の当たりにして語る「宇宙から見たら国境はない」という言葉に象徴されるように,我々の棲息する地球環境はoneearthとしてとらえざるを得ないほどグローバル化が進んできている。限りある資源を共有し,繁栄を持続可能にするためには,生命圏の拡大と人類の融和が必要である。究極の閉鎖空間である宇宙都市をモデルとしてより良い未来都市や社会構造を構築する基盤研究を促進することは,地球上で命輝き・尊厳ある持続可能な社会を構築していくうえでも意義のあることと思われる。
 この講演では,東京理科大学が推進しているスペース・コロニー研究について述べたい。