宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 2, 94, 2022

ニュースレター

4. 研究奨励賞受賞者
宇宙から学ぶ障害:第67回大会に参加して

江川 達郎

京都大学大学院人間・環境学研究科 助教

 この度は,このような寄稿の機会を設けてくださいましたこと,大会関係者の皆様に感謝申し上げます。本大会はオンラインと現地開催のハイブリッド開催であったこと,また個人的には研究奨励賞の受賞講演をさせていただいたこともあり,記憶に残る大会であったと感じております。
 さて今回の大会テーマは“生きる〜宇宙のなかで,どんなとこでも〜”であり,多様な分野の立場から宇宙で生きるための課題や新知見が提示され,宇宙はもとより地球で生きていくために大切なことを学べたように思います。私の教育テーマの一つに「障害者スポーツ」がありますが,障害者という言葉の意味について,最近では「その人に障害がある」という個人モデルではなく,「社会に障害がある」という社会モデルの考え方に変わってきています。本大会の講演を聞いていて感じたことは,地球上では何事もなく暮らせている健常者であっても,宇宙で暮らすためには様々な障害が生じる障害者になるということです。移動の困難さ,健康問題,排泄問題,精神面の悪化,多国籍による文化の違いなど,健常者にとって地球上では気にならない問題も,宇宙で暮らすためにはその解決策を図っていく必要があります。こうした点から,「宇宙で生きる」ということは「地球で障害をなくす」ということと深く関連していると感じました。
 すでに宇宙医学が地球上での健康問題解決に適用できることは知られていることですし,宇宙工学を土台に地球上での生活向上に向けた技術開発も進められています。さらに,宇宙×哲学や宗教学,倫理学,人類学,政治学といった多様な人文社会系学問との融合が図られており,今後,宇宙人文社会学の学問成果が地球社会に還元されていくことでしょう。宇宙とは何か,宇宙に社会をつくるためにはどうすれば良いか,宇宙を学問することで,地球上での多様な障害の解決に貢献できるという点は,まさに宇宙の偉大さを物語っているように思います。
 宇宙で生きることは人類の夢の一つです。多様な学問分野が融合し合うことでこれを達成し,同時に地球で生きるための障害をなくせるよう,私自身もこの壮大な夢に貢献していきたいと思います。