宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 2, 93, 2022

ニュースレター

(2)宇宙航空環境医学若手の会
宇宙航空環境医学若手の会から

増澤  諒

宇宙航空環境医学若手の会・世話人 

河野 史倫

宇宙航空環境医学若手の会・担当理事 
松本大学・大学院健康科学研究科

 宇宙航空環境医学若手の会は,学生を含む若手研究者や若手医師・医療従事者によって組織される日本宇宙航空環境医学内の団体です。年次大会における若手の会主催シンポジウムの開催だけでなく,宇宙惑星居住科学連合やSpace Medicine Japan Youth Communityとも連携しながら活動を行っています。東京慈恵会医科大学にてオンライン開催された第67回大会(南沢享大会長)においては,「リハビリテーション専門職と宇宙医学」をテーマに公開シンポジウムを開催しました。
 多様性の追求はあらゆる分野で進んでいますが有人宇宙利用も例外ではありません。2021年3月,欧州宇宙機関は宇宙における多様性の実現を目指し,世界で初めて障害のある宇宙飛行士「パラストロノート」を募集しました。さらに 9月には SpaceX 社が世界初の地球周回軌道の宇宙旅行を実施し義足の民間人が搭乗,10月には Blue Origin 社が史上最高齢90歳の民間人を乗せた準軌道飛行による宇宙旅行を実現しました。国際的なパートナーシップや商業宇宙利用の中で宇宙にアクセスする機会は急速に拡大し,これまでのように健常で万能な宇宙飛行士だけが宇宙に行くのではなく,障がい者や高齢者のような様々な背景を抱えた宇宙飛行者が宇宙に行く時代へと変わってきています。国籍や人種,性別,年齢,学歴,病気の有無などに関わらず,誰もが安全に気軽に楽しく宇宙に行けることが今後の宇宙時代のキーワードであると言えます。また世界24ヶ国が加盟する国際宇宙探査協働グループが発表する宇宙探査ロードマップでは,火星を最終的なゴールとしながら当面は月を目標としています。日本航空宇宙学会の JSASS 宇宙ビジョン 2050 によれば,2050年代には月面に月経済圏が設立され,地球低軌道の宇宙利用者も含めれば年間数百人が宇宙を訪れる試算です。これまでに宇宙飛行士の健康管理運用は医師であるフライトサージャンを中心とした医療チームが担ってきましたが,今後の宇宙飛行者の多様化 ・増加に伴い,様々な宇宙飛行者をサポートするための“医療支援の多様化”も求められます。フライトサージャンだけでなく宇宙コメディカル(宇宙医学に精通したコメディカル)のような宇宙専門医療職の存在が必要になることがシンポジウムの中で提唱されました。シンポジウムでは作業療法の重要性についての発表も行われました。作業療法では,人の生活における様々な行動を個人の特性やスタイル,価値観,環境などを配慮しながら補助します。ある物事を宇宙で実施することは人によってその難易度は異なるでしょうし,地球環境に再適応する過程にも個人差が大きいのは予想が付きます。このような発想が今後さらに発展していけば,誰もが宇宙に行ける時代に近づけるのではないでしょうか。