宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 2, 87-88, 2022
ニュースレター
1. 理事会から （1）新理事長あいさつ
理事長に就任して
岩﨑 賢一
日本大学医学部 教授
2021年11月に第7代の理事長に就任しました岩﨑賢一です。ニュースレターの紙面をお借りして，本学会についての私の思いをより詳しく紹介させていただきます。
本学会は昭和30年に航空医学を活動の中心として発足し，様々な特殊環境に関する医学分野に範囲を広げて発展してきました。特に1980年代以降，日本も国として宇宙開発に乗り出すのに合わせて，本学会においても宇宙医学分野において活動する会員が増えていきました。私の恩師である故・谷島一嘉先生はその中核をなす会員の一人であられました。先輩方が築かれた伝統ある本学会の理事長を任されたことは大変光栄でありますとともに，その責任の重さを感じています。
さて，現在の本学会は，航空や宇宙をはじめとした特殊な環境における医学研究などを行い，その成果を広く社会へ還元することを目的として，様々な分野や業種で活躍する会員で構成されています。
航空の領域において，1980年代ごろからコロナ禍前までの旅客数の増加は目覚ましく，それにもかかわらず民間航空機による致死的事故の件数や死者数は逆に漸減しているとの世界的統計があります。このことには，航空機の性能向上だけでなく，安全運航や快適な航空機旅行に資する航空医学研究の発展や，その成果等を現場で活かすフライトサージャンを始めとした関係者の増加と，その活動の拡大が寄与したものと思われます。今後さらにこの様な航空医学の貢献が進むことが望まれます。
宇宙開発の領域においては，米国とソ連が先行していたなかで，日本も1983年に最初の宇宙飛行士募集を行って以降，スペースシャトル，国際宇宙ステーションなどの計画に参加してきました。それに伴い，大学などにおける宇宙医学研究が活性化し，NASDA（現在のJAXA）でのフライトサージャンの育成などが行われてきました。そして最近では，有人火星探査も視野に入れたNASA主導による月面探査のアルテミス計画や，それに呼応した月周回軌道上のゲートウェイ計画が提案され，2020 年 7 月に文科大臣と NASA長官が月探査協力に関する共同宣言に署名しました。さらに，2021年の暮れには，日本人宇宙飛行士の月面着陸を2020年代後半に実現させる方針を政府が固め，宇宙開発戦略本部長である岸田首相が正式表明しました。このように，日本を含めた国際協力による有人宇宙開発は次の段階へ移っていきます。これに対応するため，より遠くでより長期により特殊な環境に曝露される宇宙飛行士の健康管理に資するための宇宙医学研究の更なる進展が必要と思います。加えて今年は，民間企業ロケットでの一般人の宇宙飛行が次々と成功しました。国家主導の有人宇宙開発とは別に，民間の宇宙旅行も盛んになってきています。つまり宇宙飛行をする人の数と多様性が急速に拡大する時代が近く訪れると予想されます。そのため，前述の航空医学さながらに，民間旅行者のための宇宙医学研究や宇宙医療に携わる人のすそ野を広げ，数を増やし，かつ充実させていくことが必要と思います。
このような状況のもと，本学会は，宇宙や航空環境でのヒトの生命と健康を守ることに一層貢献することが望まれます。そのためには，中堅学会員の方達により積極的に学会活動に参加していただき，それぞれの研究活動の発信をさらに増やし，学会員相互の先端知識の獲得に貢献してもらうべきと思います。また理事長としては，さらに将来においてこの領域で活躍をしてくれる次世代の方たちの入会を増やしたいと思います。そのために，「若手の会」の皆さんや，様々な大学の医学部生や学生，若手の研究者や臨床医，産業医，コメディカルの方たちと広く意見交換をして，学会に望まれることを捉えるよう努力いたします。そして，私たち経験の長い学会員は，若手の知的好奇心を刺激できるような研究と活動を行い，その成果を伝えていくことが重要だと考えています。