宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 2, 74-77, 2022

開催報告

1. Moon Village活動の全体概要

坂本 勇樹

宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 助手

【講演概要】
 第35回日本宇宙生物科学会大会(2021年9月25日)でも報告の通り,近年国家レベルにとどまらず民間のチームでも月面への着陸を目指すようになり,有人を含む月探査への動きが加速している。人類の活動領域を宇宙へと拡げ,延いて月惑星に持続的な社会を構築することは重要なテーマである。このような大きな課題を実現するためには,工学技術や医療技術的な課題のみならず,自律性の高い社会を構成するための経済性や法制度,さらに文化的側面に至るまで,既に確立した宇宙開発の成果やその手法を超えた人類の新しい活動の土俵を作るための考え方や方法論について議論が必要になる。このような背景のもと,2020年に「月惑星に社会を作るための勉強会(ムーンビレッジ勉強会)」を立ちあげた。2022年2月時点で計18回の講演会を実施するほか,実際にムーンビレッジを構築するために必要な物事について検討している。
 当勉強会では,ムーンビレッジを構築するための課題抽出にあたり,初期条件として「@1,000人が定住」し,「A地球-月間に年10,000人の往来」があり,「B 持続可能な社会」を想定した「レファレンスモデル」を検討中である。本検討には,技術的課題のみならず,人文科学的な観点も重要と考えており,アーキテクチャ,ライフサイエンス,ビジネス,社会科学,人文科学の分科会を構成しそれぞれの視点から検討を深めている。アーキテクチャ分科会では輸送,食料生産,空気・推進薬製造,レゴリス活用,居住などについて定量化を含めて検討を進めている。ライフサイエンス分科会では放射線や微重力による影響について検討している。ビジネス分科会では宇宙観光・月面資源利用の観点から検討している。社会科学分科会では,滞在に関わるルールや商業を行う上でのルールについて検討している。人文科学分科会では,いかなるコミュニティを設計し,そこでの「文化」を構想するかについて検討を行っている。
 本講演では,第35回日本宇宙生物科学会大会の内容を再構成し,これまでのムーンビレッジ勉強会の活動状況とレファレンスモデルの検討状況について報告する。

スライド抜粋
次ページ以降に本講演で提示したスライドを示す。

参考文献

1) 坂本勇樹,北村尚弘,内田 敦,岡田浩樹,泉龍太郎,「ムーンビレッジ勉強会リファレンスモデル検討WG中間報告」,第14回 月惑星に社会を作るための勉強会,2021/9/8
2) 坂本勇樹,「月に社会をつくる:ムーンビレッジ勉強会における検討状況」,第35回日本宇宙生物科学会大会,2021/9/25

【演者プロフィール】
 2019年,早稲田大学基幹理工学研究科機械科学専攻博士課程修了。同年,プロジェクト研究員として宇宙科学研究所に入所。2020年,日本学術振興会特別研究員PDとして宇宙科学研究所に在籍。2022年より現職。液体水素をはじめとする極低温流体の沸騰現象の解明などが専門。現在は再使用型ロケットや固体ロケットの研究開発に携わる。ムーンビレッジ勉強会では世話人として,特にアーキテクチャ分野を取りまとめている。