宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 1, 49, 2022

若手の会シンポジウム

リハビリテーション専門職と宇宙医学

宇宙健康管理運用業務に理学療法士がどう関わるか

森 貴史

有人宇宙システム株式会社 有人宇宙技術部 健康管理運用グループ

How physical therapists are involved in space medical operations

Takashi Mori

Human Health and Performance Operations Group, Manned Space Systems Engineering Department, Japan Manned Space Systems Corporation

現在,ヒトが生存するために必要不可欠な環境を整えた国際宇宙ステーション(International Space Station:ISS)が運用され,宇宙飛行士が日々任務を遂行している。しかしながら,地上と比較してISS内では,宇宙放射線,微小重力,閉鎖環境等の健康阻害要因が多く存在し,長期的な宇宙滞在には健康管理支援が必要不可欠である。そのため,宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency:JAXA)は,JAXA所属の日本人宇宙飛行士(以下,「日本人宇宙飛行士」とする)への健康管理運用を行っており,筆者所属の有人宇宙システム株式会社(Japan Manned Space Systems Corporation:JAMSS)は,日本人宇宙飛行士によるISSへの長期滞在開始以来,同運用を支援している。この日本人宇宙飛行士への健康管理運用は,JAXA 医学運用チームが行っており,医師である健康管理責任者の下,航空宇宙医学専門医(Fright Surgeon:FS),生理的対策,精神心理支援,バイオメディカルエンジニア(Biomedical Engineer:BME),放射線被ばく管理,環境管理などの各担当からなる「健康管理運用要員」で構成されている。
 「健康管理運用要員」の中でも生理的対策担当は,微小重力下で生じる骨量減少や筋萎縮といった身体構造や心身機能への影響や,宇宙飛行士特有の訓練時に対し,主に運動生理の観点から対策を講じ,FSと連携して業務を遂行している。これら生理的対策運用業務は,主に体力の維持向上という観点での業務が中心であるため,運動を中心として機能改善を目指す理学療法と類似する。一方で,ISSでの長期滞在後に重力環境に再適応することを目的とした,地球帰還後のリハビリテーション早期においては,理学療法士が得意とする基本的動作能力評価・回復支援等で,理学療法的知見や技術が貢献しうると考えられる。加えて,理学療法士は日本人宇宙飛行士の外傷や疾病発症といったOff-nominalな事象に対して,早期任務復帰や再発予防といった包括的な健康管理を支援できる可能性がある。また,それはISS搭乗日本人宇宙飛行士の健康管理運用支援にとどまらず,月面滞在や火星探査など有人宇宙探査に向けての生理的対策運用の構築や,多様化する宇宙飛行者への健康支援として活かされる可能性があり,将来的に理学療法士の活躍が期待される。
 おわりに,今後は理学療法士の関りは以上に留まらず,地上リハビリテーションへの応用や宇宙スポーツ領域など様々な形で関りの場が増えていくことが推測される。我々理学療法士は,その場で知見や技術を持って活躍できるよう,宇宙医学やリハビリテーションに関わる知識を将来に備えて蓄えておく必要がある。
 最後に,本稿作成に関しご指導,ご協力いただいた関係者の皆様に心から感謝と敬意を表する。
 ※本稿の内容に関連して開示すべき利益相反事項はありません。