宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 1, 48, 2022

若手の会シンポジウム

リハビリテーション専門職と宇宙医学

リハビリテーション専門職と宇宙医学

増澤 諒1,森 貴史2,藤田 康介3,植村 優香4

1松本大学大学院健康科学研究科
2有人宇宙システム株式会社有人宇宙技術部
3名古屋大学大学院医学系研究科
4京都大学大学院医学研究科

Involvement of rehabilitation specialists in space medicine

Ryo Masuzawa1, Takashi Mori2, Kosuke Fujita3, Yuka Uemura4

1Graduate School of Health Sciences, Matsumoto University
2Manned Space Systems Engineering Department, Japan Manned Space Systems Corporation
3Graduate School of Medicine, Nagoya University
4Graduate School of Medicine, Kyoto University

多様性の追求はあらゆる分野で進んでいるが有人宇宙利用も例外ではない。2021年3月,欧州宇宙機関は宇宙における多様性の実現を目指し,世界で初めて障害のある宇宙飛行士「パラストロノート」を募集した。さらに9月にはSpaceX社が世界初の地球周回軌道の宇宙旅行を実施し義足の民間人が搭乗した。翌10月にはBlue Origin社が史上最高齢90歳の民間人を乗せた準軌道飛行による宇宙旅行を実現した。国際的なパートナーシップや商業宇宙利用のなかで宇宙にアクセスする機会は急速に拡大し,これまでのように健常で万能な宇宙飛行士だけが宇宙に行くのではなく,身体の不自由な障がい者や高齢者のような様々な背景を抱えた宇宙飛行者が宇宙に行く時代が目前に迫っている。国籍や人種,性別,年齢,学歴,病気の有無などに関わらず,あらゆる立場の人が安全に気軽に楽しく宇宙に行けることが今後の宇宙時代のキーワードである。これまでに宇宙飛行士の健康管理運用は医師であるフライトサージャンを中心とした医療チームが担ってきた。今後の宇宙飛行者の多様化・増加にともない,様々な宇宙飛行者をサポートするためには医療支援も多様化が求められ,フライトサージャンだけでなく宇宙コメディカル(宇宙医学に精通したコメディカル)のような宇宙専門医療職の存在が必要になると推察される。リハビリテーション専門職である理学療法士は,すでに宇宙飛行士の長期宇宙滞在における帰還後の地上リハビリテーションに介入しているが,今後の宇宙時代に療法士はどのような立場で宇宙医学に貢献できるのであろうか。準軌道飛行などのいわゆる短時間の宇宙滞在では生理的対策はほとんど必要としないが,惑星往還あるいは1〜2週間程度の滞在型宇宙旅行や周回宇宙飛行などではリハビリテーションの対象になることが考えられる。さらに運動困難な障害者や高齢者のような方が宇宙に行くための支援をすることも重要な役割になるかもしれない。
 宇宙リハビリテーション(Space rehabilitation)の正式な概念はまだない。2021年度,宇宙医学に関心のある若手療法士で宇宙リハビリテーション研究会を結成した。当研究会では,宇宙リハビリテーションの概念は,宇宙飛行士健康管理・民間宇宙関連健康管理・地上リハビリテーションの3要素から構成されることを提唱している。これまでは宇宙飛行士の健康管理における飛行前中後のリハビリテーションとして捉えられてきたが,今後は,民間宇宙利用が進み健康管理対象者が変化することでその意味はより広義になることが予想される。さらに地上リハビリテーションとの結びつきをより強固にすることで宇宙の恩恵を地上のリハビリテーションに活かし,有人宇宙利用拡大に向けた宇宙リハビリテーション人材の確立が必要になると推察される。