宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 1, 44, 2022

一般演題 3

23. 宇宙頭痛に対するエコー・MRI画像解析による病態解明

後藤 正幸1,2,6,柴田 靖2,石山 すみれ5,石川 栄一3,松丸 祐司4

1筑波大学人間総合科学研究科疾患制御医学専攻
2筑波大学水戸地域医療教育センター/水戸協同病院 脳神経外科
3筑波大学医学医療系脳神経外科
4筑波大学脳卒中予防・治療学講座
5筑波技術大学 保健科学部
6聖麗メモリアル病院

Elucidation of the pathogenesis of space headache using echo and MRI imaging analysis

Masayuki Goto1,2,6, Yasushi Shibata2, Sumire Ishiyama5, Eiichi Ishikawa3, Yuji Matsumaru4

1Degree Programs in Medical Sciences, Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba
2Department of Neurosurgery, Headache Clinic, Mito medical Center, Mito Kyodo General Hospital, University of Tsukuba
3Department of Neurosurgery, Faculty of Medicine, University of Tsukuba
4Department of Stroke and Cerebrovascular Diseases, University of Tsukuba
5Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology
6Seirei Memorial Hospital

【背景】 宇宙滞在中に多くの飛行士が強い頭痛に悩まされており,2009年の最初の報告では17人の飛行士のうち12人(71%)に中程度から重度の頭痛を生じたと報告されている。微小重力での頭部への体液シフトによる頭蓋内圧上昇,前庭系の機能変化に伴う各感覚情報の統合混乱,ISSの高い二酸化炭素濃度などが原因として考えられているが,その病態はいまだ不明である。宇宙での頭痛の発症は飛行士の業務上のパフォーマンスを低下させ,ミッション成否に係わる可能性も懸念される。宇宙頭痛は,国際頭痛分類第3版A10において 「ホメオスターシス障害による頭痛」に分類されており,民間人を含めた有人宇宙活動の発展に向けて本病態の解明は重要である。
 【目的】 宇宙頭痛の本態は頭蓋内圧亢進にあるのではないかとの仮説を立て,健常者に対して頭部への体液シフトが生じる状況を非侵襲的に再現し,頭痛を生じた際の頭蓋内圧および画像変化との関連を明らかとする事とした。
 【対象】 慢性頭痛および頭蓋内疾患のない健常成人20例とした。平均年齢は46.6±12.5歳,性別は男女各10名であった。
 【方法】 仰臥位および頭部を水平位より10°下げるhead-down tilt bed rest (HDBR)での画像検査を実施し,頭痛症状との相関解析を行った。画像検査は,視神経鞘径が頭蓋内圧と正の相関を示すとの先行研究にもとづき,眼球エコー検査およびMRIによる視神経鞘径計測を行った。また,MRIで第4脳室・第3脳室・側脳室のサイズ(軸位断での横径)計測を行い,脳室内を循環する髄液分布のHDBRに伴う変化を推察した。また,長期宇宙滞在では多くの飛行士の脳が上方に変位し,脳溝の狭小化および頭頂部の髄液腔スペースが減少することが報告されており,HDBRでの脳溝の状態および頭痛との関連について評価した。
 【結果】 全20例中HDBR後に頭痛を発症したのは14例,発症しなかったのは6例であった。頭痛発症は若年者に有意に多かった。脳溝の狭小化は20例中5例でわずかに認めたが,有意差はなく頭痛との関連も認められなかった。脳室サイズは,第4脳室径が有意に縮小を認めた。
 【考察】 視神経鞘径はHDBR後に有意に増加しており,頭蓋内圧亢進と正の相関を示す報告が多く見られることから,頭蓋内圧亢進により頭痛が生じたと考えられた。脳脊髄液は,主に脳内の毛細血管で産生され静脈系にドレナージしており,心拍動に伴い第3脳室とその尾側にある第4脳室の間でto and flowの状態にあるとされている。今回HDBRによって第4脳室径は有意に縮小を認めたことから,第3-第4脳室間の脳脊髄液の生理的なto and flowが減少した可能性が示唆された。今後は,HDBR時の脳微細構造や機能変化について解析し,さらなる宇宙頭痛の病態解明を行っていく。