宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 1, 43, 2022

一般演題 3

22. 人体・動物の酸素運搬機構に関する一考

吉田 泰行1,2,中田 瑛浩3,井出 里香4,山川 博毅5,長谷川 慶華6

1威風会栗山中央病院 耳鼻咽喉科
2勤労者医療協会 二和ふれあいクリニック
3威風会栗山中央病院 泌尿器科
4東京都立大塚病院 耳鼻咽喉科
5JCHO 埼玉メディカルセンター 耳鼻咽喉科
6はせがわ内科クリニック

A Consideration on the Transporting Mechanism of the Oxygen of the Animal Body

Yasuyuki Yoshida1,2, Teruhiro Nakada3, Rika Ide4, Hiroki Yamakawa5, Keika Hasegawa6

1Department of E.N.T., Kuriyama Central Hospital
2Hunabashi Hutawa Hureai Clinic
3Department ofUrology, Kuriyama Central Hospital
4Department of E.N.T., Ohtsuka Metropolitan Hospital
5Department of E.N.T., Medical Center of JCHO Saitama
6Hasegawa Clinic of Internal Medicine

【緒言】 地球の酸素濃度の変遷は,初めは還元型の大気だったのが先カンブリア代のシアノバクテリアの作用等で酸素の豊富な大気に変質し,以降スーパーアノキシアの様な変動は有るも酸化型の大気を維持して来た。一方太陽系の大気を持つ岩石惑星の大気組成を見ると,二酸化炭素96%表面圧約100気圧の金星,二酸化炭素95%表面気圧1,000分の7?9気圧の火星となるが,酸素の多い酸化型大気を持つ地球は異様である。地球型生物の酸素運搬機構を見るに,殆どの動物の酸素担体はヘモグロビン他3種であり,しかも動物系統樹上の位置とは余り関係無く採用されている。動物の酸素運搬機構の酸素受け取りから酸素消費迄の経路は,開放循環系では各の体節の深部迄空気の経路を設け拡散作用で組織液に酸素を取り込んだら直ぐに近傍の消費場所である末梢組織に至る一方,閉鎖循環系の動物では概して体は大きく拡散作用に頼る事なく酸素取り込み場所で体液である血液に取り込み拡散作用では届かない遠い所迄血流で運び消費各所で血液から酸素の供給を受ける仕組みである。水中で発生した地球型生命が如何にして上陸するに至ったか? 単位体積当たりの酸素含有量を見ると,酸素/窒素格分子の混合であるが空気1リットル当たり含有する酸素は209ml(280mg)であり,一方水1リットル当たり含有する酸素は7ml(10mg)であり空気中の方が断然酸素が多い。更に媒質と媒体の関係をみると,空気1リットル(910mg)の媒質に含有する酸素は280 mgに対し水1リットル(1,000g)に含有する酸素は10mgであり,同じ量の酸素を水から獲得する為には空気の3万倍もの水を動かさねばならない事になる。
 【酸素運搬】 動物として人体を見ると動脈血の酸素濃度はHb結合酸素と血漿中の溶存酸素の合計で表されるが,Hb結合酸素が大部分を占め溶存酸素は略無視でき得る。即ち生体は溶存酸素は使わずHbの結合酸素のみに頼っている。1気圧下(酸素分圧152mmHg,肺胞内酸素分圧約100mmHg)ではHb結合酸素のみが働く。しかし気圧が上がれば上がるほど溶存酸素は圧力に従い増加するが,結合酸素は気圧の上昇に関わらず飽和しており増加しない。此れは地球上の生命は今迄の過程で酸素濃度の変動は有っても気圧の変動には晒されておらず1気圧下での生命活動しか行って来なかった事を彷彿させる。さて酸素濃度の変動はP-T境界の無酸素事変を牽くまでも無く地球史の上で大きな影響を持っており,酸素濃度の変動にどの様に対処したかを,海抜高度に拠る酸素分圧の低下から考察すると,現今の最適なHbの酸素結合能からどちらかに変動するかである。結合能を上げれば低酸素環境でも酸素の取り込みは改善するが末梢組織での酸素分離度即ち酸素供給能を下げる事となり,逆もまた真なりである。このトレードオフの関係はアジアと南米の高地民族の酸素結合能の違いに良く現れている。
 【考按】 @ 地球上の生物は極一部を除いて,生存の為のエネルギー産生を酸素に頼り,体内への取り込み/体内での運搬機構を稼働している。A 生物が誕生したと思われる水中と,空気中の酸素濃度及び媒質/媒体比を酸素利用の面から見て,空気中が圧倒的に有利であると思われる。B 現生の生物は1気圧の大気に良く適応しているが,これは地球は現在の金星の様な濃密大気や火星の様な希薄大気を経験した事は無いと考えられる。
 【結語】 地球上の生物の進化・発展に関して酸素運搬の点から大気変化も併せて検討した。