宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 1, 41, 2022

一般演題 3

20. マウス骨格筋の急性運動に対する遺伝子発現とヒストン修飾の応答

清水 純也,河野 史倫

松本大学大学院健康科学研究科

Response of gene expression and histone modification to acute exercise in mouse skeletal muscle

Junya Shimizu, Fuminori Kawano

Graduate School of Health Sciences, Matsumoto University

【背景および目的】 運動は,宇宙滞在中の筋肉量を維持する上で重要な役割を果たすが,運動効果の獲得効率は個体によって異なる。そのような個体差は,運動誘発性ヒストン修飾の種類・量が個体ごとに異なることに基づいている可能性がある。実際に,急性運動後に発現増加した遺伝子領域では遺伝子発現を活性化させるヒストン修飾(例:H3K4me3)が付加されるが,同時に転写活性を抑制することが知られているH3K27me3も付加されることがヒト骨格筋で報告されている(Shimizu et al. PLoS ONE, 2020)。しかしながら,運動によるH3K27me3付加が骨格筋における運動効果獲得に果たす役割は知られていない。そこで,急性運動に対する遺伝子発現応答におけるH3K27me3の役割を明らかにすることを目的として本研究を実施した。
 【方法】 実験1:30分間のトレッドミル走運動直後,2,4,8,24時間後にマウス前脛骨筋を採取した(各n=3)。Pgc-1α-aPgc-1α-bPdk4Murf1をターゲットとし,遺伝子発現ならびにヒストン修飾の経時的変化を解析した。実験2:H3K27メチル化酵素EZH2の阻害薬GSK343(コントロール群はDMSO)を投与し,実験1と同様のトレッドミル走運動後における遺伝子発現ならびヒストン修飾の解析を行った。
 【結果】 実験1:運動2時間後,Pgc-1α-aPgc-1α-bMurf1遺伝子発現が有意に増加し,その時点のPgc-1α-aおよびMurf1遺伝子領域におけるH3K27me3修飾も有意に増加した。実験2:各遺伝子発現は,運動2時間後ではGSK343投与の影響はなかったものの,8時間後ではGSK343投与+運動群でPgc-1α-aPgc-1α-bMurf1遺伝子発現の有意な増加が認められた。運動8時間後の筋サンプルを用いたヒストン修飾分布解析の結果,全ての遺伝子領域においてH3K27me3分布がGSK343投与+運動群で有意に増加した。このようなH3K27me3増加は,H3K4me3修飾と有意な正の相関関係を持つことも確認された。
 【考察】 以上の結果から,急性運動による運動関連遺伝子領域へのH3K27me3付加が,同領域におけるH3K4me3修飾を促進し,急性運動に対する遺伝子発現応答を高めることが示唆された。