宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 1, 38, 2022

一般演題 2

17. コロナ禍の水際対策から宇宙時代の感染症抑制について考える―大規模空港での実践の発展的評価―

柴田 伊冊

千葉科学大学 危機管理学部(元 成田国際空港(株) 運用本部)

A Study of the Shoreline Operation to Fight COVID19 at the International Airport

Isaku Shibata

Department of Risk Management, Chiba Institute of Technology

【問題の所在】 2020年3月11日,世界保健機関(World Health Organization:WHO) はコロナウイルス (COVID-19) による感染について,パンデミック (世界的な大流行) であることを宣言した。
 この時期,日本は感染の拡大の初期にあったものの,2020年3月の渡航制限実施によって,成田国際空港の利用者は急減し,4月には,前年比で10%にまで落ち込んだ。この状態は2021年3月の段階でも回復の兆しがなく,空港の管理主体である成田国際空港株式会社は2020年度について714億円の赤字を記録した。開港以来,初めての大規模な赤字であった。大手航空会社も同様であったから,航空会社の世界規模の団体である国際航空運送協会(IATA)は警鐘をならし,危機の到来を告げた。空港会社の団体である国際空港評議会 (ACI) も同じであった。そしてWHOと連携する国際民間航空機関 (ICAO/UN) は,航空の枠組みの中核の位置にする国際機関であるから,直ちにコロナに対する指針を示した (Doc 10144)。このように航空の世界は危機のときに突入したが,日本の対応は緩やかであった。宇宙飛行が具体化しつつある今日,コロナの日本での対応について検証が必要なのは,第一に,対応のあり方の適性であり,その有効性である。第二に,それが宇宙を射程においた未来に繋がる実質を備えているのか,である。
 【考察】 コロナ禍は,その正体が十分に把握されないまま始まった。しかも,それは中国,次いでヨーロッパ,アメリカで急速に拡大し,アジアでの拡大は緩慢であったため,空港では徐々に対策が充実化されたものの,主体は従来からの空港検疫であり,そしてそれは従前からの方法の延長であった。機内での伝染病発症についての考察は,空港運用として元々存在したが,具体的な対処は検疫を中心にして,その都度空港内の診療所と周辺の基幹病院との間の「協議」によって決められた。そして,そこでの運用の基本を定めるのは「医療」であるが,コロナ禍が到来するまで,日本の空港には長期間かつ大規模な経験がなかった。そのため,対応の実際は,従前の対応を修正・適用することに終始した(「水際対策強化に係る措置」の積み重ね)。今後,宇宙飛行という気密性が高く,即時の着陸が困難な場合での不測に対応するためには,即時かつ広範囲の情報流通に適した権限の配分と迅速性が求められる。検査の方法や対処法が確定していなくとも,最悪を想定した実践に連動しなければならない。今日まで空港は,単体では対処を完結できないから,対応は罹患の可能性の検出と隔離に限られている。それは,日清戦争当時の帰還兵の一括検査の必要に応じた先駆者,後藤新平の主導による「隔離」という枠組みの延長に過ぎない。
 【今後の指針】 今後,宇宙での民間飛行も射程におくときには,機内と地上との連携について,技術的に高度化された運航環境を考慮し,空域では国別という狭い棲み分けを超えた,医療を中核にした集中と迅速が必要である。それが「構造の合理性」に繋がる。