15.　高二酸化炭素血症と体液頭側シフトが脳血流に与える複合影響の用量依存性|Dose-effects of head-down-tilt angle on cerebral blood flow under hypercapnia

一般演題 2

15.　高二酸化炭素血症と体液頭側シフトが脳血流に与える複合影響の用量依存性

加藤　智一，田子　智晴，小川　洋二郎，岩﨑　賢一

日本大学医学部　社会医学系衛生学分野

Dose-effects of head-down-tilt angle on cerebral blood flow under hypercapnia

Tomokazu Kato, Chiharu Takko, Yojiro Ogawa, Ken-ichi Iwasaki

Division of Hygiene, Department of Social Medicine, Nihon University School of Medicine

【背景】　国際宇宙ステーションでの長期滞在や傾斜角度が大きい頭低位で行うロボット支援下腹腔鏡手術では，「高二酸化炭素血症」と「体液頭側シフト」の二つの因子が併存する。高二酸化炭素血症によって脳血流が増加することが知られているが，これに，体液頭側シフトが加わり，体液頭側シフトの強度が強くなった場合に高二酸化炭素血症による脳血流増加が増強される可能性があるが，未だ検討されていない。
　【目的】　本研究では，「3%CO₂吸入」と「ヘッドダウンティルト（HDT）」の複合負荷において，HDTの傾斜角度が増加した場合に，3%CO₂吸入による脳血流増加が増強されるか否か検証した。
　【方法】　健康被験者8名を対象に，HDTの傾斜角度が異なる3つのプロトコール（5°HDT+3%CO₂, 15°HDT+3%CO₂, 30°HDT+3%CO₂）を別日かつ無作為順序で実施した。まず，水平位の電動ティルトベッド上で経頭蓋ドプラ血流計および非観血的連続血圧計を装着し，中大脳動脈の脳血流速度波形と橈骨動脈の動脈血圧波形を連続記録した。また，呼気炭酸ガスモニタを装着し，呼気終末二酸化炭素分圧（ETCO₂）を1分毎に記録した。15分以上の安静後に，水平位で空気（room air）を10分間吸入させ，後半6分間のデータを負荷前データとした。続いて，ティルトベッドの傾斜角度を変更し（5°, 15°, 30°HDT），変更完了時から3%CO₂を10分間吸入させ，後半6分間のデータを負荷中データとした。6分間の負荷前および負荷中データにおいて，平均脳血流速度および平均動脈血圧，ETCO₂の区間平均値を算出し，繰り返しのある二元配置分散分析で統計解析した。
　【結果】　HDTの傾斜角度が異なる3つのプロトコールにおいて，平均脳血流速度は，負荷によって有意に増加した（5°HDT+3%CO₂:56±15→64±18cm/s, 15°HDT+3%CO₂:59±14→64±15cm/s, 30°HDT+3%CO₂:57±12→63±14cm/s）。しかし，プロトコール間で負荷中の平均脳血流速度に統計学的な差は認めなかった。平均動脈血圧は，負荷によって有意な変化は認めなかった（5°HDT+3%CO₂:74±9→72±8mmHg, 15°HDT+3%CO₂:75±5→76±7mmHg, 30°HDT+3%CO₂:79±6→76±7mmHg）。ETCO₂は，負荷によって有意に増加した（5°HDT+3%CO₂:41±3→45±2mmHg, 15°HDT+3%CO₂:41±2→45±3mmHg, 30°HDT+3%CO₂:41±2→45±2mmHg）。プロトコール間で負荷中のETCO₂に統計学的な差は認めなかった。
　【考察】　HDTの傾斜角度が異なる3つのプロトコールのいずれにおいても，負荷によって，平均脳血流速度が増加した。本研究においても，3%CO₂吸入によって，先行研究と同程度の平均脳血流速度の増加が確認できた。しかし，プロトコール間で負荷中の平均脳血流速度の増加の程度に差は認めなかった。従って，体液頭側シフトの影響ではなく，主に高二酸化炭素血症の影響のみが脳血流速度の増加に表れたと考えられる。予想に反して，高二酸化炭素血症による脳血流増加に対して，HDTの傾斜角度を大きくしても，傾斜角度30°までの頭低位であれば，HDTは付加効果を示さないことが示唆された。
　本研究は科学研究費（20K06844）の助成を受けて実施した。