宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 1, 34, 2022

一般演題 2

13. AI Surgery in Space始動!

中沼 寛明1,藤永 淳郎1,河村 昌寛1,遠藤 裕一1,徳安 達士2,猪股 雅史1

1大分大学医学部 消化器・小児外科学講座
2福岡工業大学 情報システム工学部

AI Surgery in Space is about to be launched !

Hiroaki Nakanuma1, Atsuro Fujinaga1, Masahiro Kawamura1, Yuichi Endo1, Tatsushi Tokuyasu2, Masafumi Inomata1

1Department of Gastroenterological and Pediatric Surgery, Oita University Faculty of Medicine
2Department of Information System and Engineering, Fukuoka Institute of Technology, Faculty of Information Engineering

【背景】 月面以深の有人宇宙探査は滞在期間だけでなく重力再適応等の問題により,重症外傷のリスクや緊急外科治療を要する内因性疾患の発生頻度も高まると予想される。現時点では,有人宇宙滞在において常に外科医師がいるわけではなく,地上との連携で医療支援システムを構築していかねばならない。一方で,手術は刻一刻と移り変わるダイナミックな治療であり,数秒の遅れが命取りとなるため,遠隔ロボット手術におけるタイムラグが看過できず,今後は月面や宇宙船内における自律した医療活動支援システムを構築していく必要がある。
 外科手術において,術者の解剖の誤認が術中合併症を起こす主な原因となっていると報告されている。しかし重要な解剖学的ランドマークを認識するためには,熟練外科医の「経験知」が必要とされ,各々の臨床現場で一子相伝の技術として受け継がれてきた。その一方で,1950年代に研究が開始された人工知能(AI:Artificial Intelligence)は,計算機の進歩により新たな時代を迎え,deep learning(深層学習)による画像認識技術が,医療現場で利活用されるようになってきた。外科医の経験を蓄積したAIが,術者の判断の支援を行う事で,いつでもどこでも安全な外科医療を提供できる時代が到来しようとしている。今回,AI外科医療の有人宇宙開発における課題への挑戦を考察した。
 【現状】 我々の研究チーム(大分大学,福岡工業大学,オリンパス株式会社)は,熟練外科医の「暗黙知」である解剖学的ランドマークを術中に教示するAIシステムを構築し,腹腔鏡下胆嚢摘出術を対象に10症例の単施設前向き臨床実機検証試験(J-SUMMIT-C-01)を行い,概ね良好な教示精度を確認できた。直面した課題として,不必要なシーンにおいてAIがランドマークを教示する場面が見られた。それに対し,画像分類システムであるEfficientNet B7を用いて,手術場面の移り変わりの認識を行い,手術の各局面における情報を教示できるシステムの開発検証を開始した。AIが手術シーンを自動認識することで,誤認識・誤表示が減少する事が期待できる。今回,AIが判断するシーン毎に術中ランドマーク教示の閾値を変更するという二つのアルゴリズムを同時に運用するシステムの実験機を作成し,臨床実機検証中(J-SUMMIT-C-02:Cross AI system臨床性能試験)である。
 【展望】 我々が開発しているランドマーク教示システムは,既に見えている解剖学的構造物をAIが表示するだけでなく,術中判断に必要な「見えないランドマークの可視化」を可能とするシステムである。宇宙空間での自律した外科医療を支援するAIの開発は既に始まっており,深宇宙における超長期の有人宇宙滞在技術のソリューションを今後提示していく予定である。