宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 1, 31, 2022

一般演題 2

10. 水位の違いが健常若年成人における安静座位時の腎動脈血流に及ぼす影響

小野 くみ子1,浦邊 順史1,中山 優豊1,岡川 隼也1,石川 朗1,小野寺 昇2

1神戸大学大学院保健学研究科
2川崎医療福祉大学医療技術学部健康体育学科

Effect of Different Water Levels on Renal A. Blood Flow in Healthy Young Adults

Kumiko Ono1, Junji Urabe1, Yuuto Nakayama1, Junya Okagawa1, Akira Ishikawa1, Sho Onodera2

1Kobe University Graduate School of Health Sciences
2Kawasaki University of Medical Welfare

【緒言】 腎臓は,その重量が体重の0.4%程度しかないにも関わらず,腎血流量が心拍出量の約22%を占める極めて高い血流量を受けている臓器である。水中環境において,ヒトは静脈還流量の増大に関連して腹部大静脈の横断面積が増大することが明らかになっている。本研究は,運動時腎血流の観点から水中運動の利点を明らかにするために,水位の違いが若年健常成人における安静座位時の腎動脈血流に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
 【方法】 対象は,健常若年成人男性22名(年齢23.0±1.2歳:平均値±標準偏差)であった。陸上(L)椅子座位安静をとった後,水槽内に移動し,水中椅子座位安静をとった。水中安静時の水位は,大転子(TM),剣状突起(XP),頸切痕(JN)と漸増させた。測定項目は,椅子座位安静中の腎動脈血流動態:時間平均血流速度(Vm)・血管抵抗(RI),血圧(BP),心拍数(HR)および心臓副交感神経系活動(LnHF)であった。主要評価項目である腎動脈血流動態は,超音波診断装置(超音波診断装置 F37,日立アロカメディカル株式会社)を用いてコンベックス型プローブ(3.0 MHz)を使用し,パルスドプラモードにて右腎動脈の血流波形を,全て同一の検者が測定した。対象者の体位はそれぞれ椅子座位とし,プローブを腹部前面に当て,ドプラ入射角は60?以内で測定した。血流測定時,対象者は10秒程度呼吸を止め,3波形分測定し,その平均値を求めた。
 【結果】 測定環境は,室温29.3±0.8?C,湿度71.2±8.2%,水温33.0±0.6?C,水深はTM 53.4±2.0cm,XP 81.2±2.9cm,JN 98.6±3.0cmであった。水位を上げるに従って,Vmは有意に増加(L→TM→XP→JN:29.6±5.6→30.6±4.0→35.8±5.2→38.7±8.8cm/s)し(p=0.0001),RIは有意に増加(0.47±0.1→0.50±0.1→0.54±0.1→0.56±0.1)した(p=0.01)。事後検定の結果,VMおよびRIともに,XPとJNの間に有意な変化を認めなかった。BPは収縮期および拡張期ともに水位の変化に伴う有意な変化は認められなかった。HRは,有意に減少(79.0±9.1→74.1±10.1→65.1±7.5→65.9±8.7bpm)した(p=0.0001)。LnHFは有意に増大(4.79±1.11→5.23±1.02→6.67±0.59→6.53±0.82)した(p=0.0001)。
 【考察】 椅子座位安静時の腎動脈血流動態は,VmおよびRIともに水位の上昇に伴う有意な増加を認めた。血流量は血流速度と血管径の積で求めることができるが,腎動脈血管径は安静時に大きな変化を認めないことから,血流量は血流速度に大きく依存するものと考えられる。したがって,水位を剣状突起レベルまで上げることによって,腎動脈血流量を増大させることができるものと考えられる。また,陸上では運動強度に依存して腎動脈血流量が減少するが,本研究結果から水中環境では安静での出発点を高めることができることから,そのアドバンテージにより腎負担を軽減しながら運動強度を高めることができる可能性が考えられた。