宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 1, 30, 2022

一般演題 2

9. 深呼吸が心臓の位置変化に及ぼす影響

浮田 優香1,和田 拓真2,小野寺 昇2

1川崎医療福祉大学大学院 健康体育学専攻
2川崎医療福祉大学 健康体育学科

The effects of breathing on changes in heart position in humans

Yuka Ukida1, Takuma Wada2, Sho Onodera2

1Graduate School, Kawasaki University of Medical Welfare
2Kawasaki University of Medical Welfare

【背景】 宇宙飛行士は,宇宙空間において微小重力,放射線,閉鎖環境などの影響を受け,地上とは異なる生体反応を示す。船外活動トレーニングにおいて,水の物理的特性である浮力を利用した水中環境が使用されている。そのため,水中環境における心臓位に着目し,水位が鎖骨位になると左側へ変化することを我々は報告した。水圧による横隔膜の挙上が心臓を左側へ変化させたと考えられた。このことから,呼吸における横隔膜の挙上・下降が心臓の位置変化に影響を及ぼすと推測した。
 【目的】 本研究は,横隔膜の挙上・下降がみられる深呼吸における心臓の位置変化について明らかにすることを目的とした。
 【方法】 対象者は,心臓疾患等の既往歴のない健康な成人男性9名(年齢:21.0±0歳,身長:170.5±5.4cm,体重:67.3±6.7kg,mean±SD)であった。測定項目は心臓位とした。心臓の位置変化は,超音波エコー法を用いて僧帽弁を基点とし,測定した。測定条件は,自然呼吸条件と深呼吸条件とした。立位姿勢での心臓の位置変化を測定した。室温は19°C,湿度は40%であった。統計処理は,IBM SPSS Statistics Version 23 for Macを用いた反復測定(対応のある因子)による一元配置の分散分析を行った。その後,Dunnettの事後検定を使用して,この相互作用を検証した。有意水準は,5%未満とした。川崎医療福祉大学倫理委員会の承認を得て実施した。
 【結果】 自然呼吸条件における心臓の位置は,吸気時において右側へ11.7±6.9mm(p<0.05),呼気時において左側へ3.9±5.6mm変化した。深呼吸条件における心臓の位置は,吸気時において右側へ14.5±9.2mm(p<0.05),呼気時において左側へ2.0±7.0mm変化した。吸気時に自然呼吸条件と深呼吸条件ともに有意に心臓の位置は,右側へ変化した。
 【考察】 先行研究は,横隔膜の右側の下降により縦隔が右側へ変位することを報告した。心臓は,心膜によって覆われている。上胸骨心膜靭帯,椎骨心膜靭帯,心膜から胸骨柄と剣状突起にかけて胸骨心膜靭帯が心膜と連結し,横隔心膜靭帯は心臓の右側に連結している。解剖学的観点からの考察に従えば,横隔心膜靭帯が心膜と横隔膜を連結していることにより心臓を右側へ位置変化させたと考えられた。
 【まとめ】 呼吸運動に伴い心臓の位置は,右側へ変位することが明らかになった。