宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 1, 29, 2022

一般演題 1

8. 免荷歩行における筋活動の低下は下肢近位筋でより大きな影響を受ける

福田 明加,加藤 玲奈,小谷木 雅基,平井 光祐,峯岸 奈央,村田 俊之輔,門馬 博

杏林大学保健学部理学療法学科

Lower muscle activity during unweighted walking is more affected in proximal lower limb muscles

Haruka Fukuta, Rena Kato, Masaki Koyagi, Kosuke Hirai, Nao Minegishi, Shunnosuke Murata, Hiroshi Momma

Department of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Kyorin University

【背景及び目的】 国際宇宙ステーションにおける宇宙飛行士長期滞在ミッションから,微小重力環境が身体に及ぼす影響については多くの知見が明らかになってきている。しかし今後月面における有人探査計画を考えると,低重力環境における長期滞在を想定した生理的対策が必要である。そこで今回,我々は体重免荷トレッドミル歩行中の下肢筋活動,および歩容の分析を行うことで低重力環境での長期滞在が身体に及ぼす影響を推察することができると考え,検討したので報告する。
 【方法】 対象は健常男性10名。運動課題は体重免荷装置を用いたトレッドミル上での歩行とし,免荷条件は0%(免荷なし),10%,20%,30%,40%,50%の計6条件とした。
 歩行中の下肢筋活動は表面筋電図を用いて前脛骨筋,腓腹筋,大腿直筋,中殿筋の活動を計測した(全て右側)。また,歩容を確認するために矢状面からビデオカメラを用いて全身が入るように録画した。そしてインソール型足圧計測装置(以下,足圧計)を用いて各条件における接地パターンの分析を行った。
 【結果】 表面筋電図の結果から,前脛骨筋,腓腹筋,中殿筋において免荷量が大きくなるほど筋活動が小さくなる傾向を示し,特に免荷50%条件においては0%(免荷なし)と比較して前脛骨筋で約25%低下,腓腹筋で約57%低下,中殿筋で約62%低下と有意な低下が認められた。特に中殿筋は免荷40%条件においても約54%の低下を示しており,免荷量が少ない状況においても筋活動低下の傾向が顕著であった。一方で大腿直筋においては各免荷条件間で筋活動に有意な差は認められなかった。足圧計の計測結果では各被験者間で個人差はあるものの,免荷量の増加に伴い踵接地パターンから前足部接地パターンへ移行する割合が増加していた。
 【考察】 体重免荷により下肢筋の筋活動の低下が認められたが,推進力やバランスの保持のためにはたらく下腿筋に比べ,推進力への影響が少ない中殿筋においては体重免荷による筋活動低下の影響が顕著であった。野口聡一飛行士は長期滞在ミッション中に「下肢の遠位筋は自身を定位させるために頻繁に使われる」とコメントしている。遠位筋は推進力の産生と方向の定位に必要となるが,近位筋である中殿筋は片脚支持期において地上ほど活動が求められなくなるため,低重力環境における長期滞在では中殿筋の筋力低下により注意する必要性が示唆された。