宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 1, 25, 2022

一般演題 1

4. 宇宙資源の効率的分配のための実験採択手法とファンディングスキームの提案

村上 純一1,瀧澤 玲央2,川原 彩文1,小田 哲史1,䑓 崚1,アバスザデ ダニエル アリヤ1,茅原 武尊1,塩屋 沙季1,清水 凜佳1,山口 修平1,山下 雄大1,黒坂 優子1,長野 友香1,田中 達也3,黒住 献4,岡 愛子5,前田 剛志5,堀口 淳4

1国際医療福祉大学
2国際医療福祉大学成田病院 血管外科
3国際医療福祉大学成田病院 脳神経外科
4国際医療福祉大学成田病院 乳腺外科
5国際医療福祉大学成田病院 耳鼻咽喉科

Proposal of an auction system for the adoption of space medicine experiments in order to distribute space resources efficiently and fairly and a new funding scheme

Junichi Murakami1, Reo Takizawa2, Ayami Kawahara1, Satoshi Oda1, Ryo Dai1, Abbauzadeh Daniel Ariya1, Takeru Kayahara1, Saki Shioya1, Rinka Shimizu1, Shuuhei Yamaguchi1, Yudai Yamashita1, Yuko Kurosaka1, Yuka Nagano1, Tatsuya Tanaka3, Sasagu Kurozumi4, Aiko Oka5, Koji Maeda5, Jun Horiguchi4

1International University of Health and Welfare (IUHW)
2IUHW Narita Hospital, Vascular Surgery
3IUHW Narita Hospital, Neurosurgery
4IUHW Narita Hospital, Breast Surgery
5IUHW Narita Hospital, Otorhinolaryngology

【目的】 宇宙という微小重力の環境に長期滞在すると,筋肉や骨量が減少する。今後,老化の予防法などの実験の場として,宇宙医学実験の活発化が予想される。そこで,@ 宇宙資源を効率的かつフェアに分配するため,宇宙医学実験採択におけるオークション方式を導入と,A 宇宙開発と宇宙医学実験の資金ミスマッチ解消のための新しいファンディングスキームを提案する。
 【方法】 @ オークション方式での宇宙医学実験採択
 2020年,米スタンフォード大学のポール・ミルグロム教授らが,「オークション理論への貢献」でノーベル経済学賞を受賞した。オークション方式により,限りある資源を効率的,かつフェアに分配が可能になる。宇宙医学実験採択にあたっては,宇宙船内の空間と時間,実験する人の労働といった限りある資源の分配にあたり,オークションで,実験参加希望の企業群に,参加費と必要資源量を入札してもらい,最終的に実験を採択することが望ましい。ただ,宇宙医学実験の決定は,金銭面だけでなく,将来の重要度や倫理面や安全面での判断も必要となるため,研究分野を限定してのオークション開催や,実験採択のための倫理委員会や安全委員会の設置といった工夫も必要である。
 A 新しいファンディングスキーム
  宇宙開発運用サイドでは,宇宙船の開発や打上げに関連して,運用開始前の初期に多大な費用が発生する。一方で,実験参加企業にとっては,経時的に実験の効用が高まるため,参加費を,実験開始前に全額払うより,実験開始後に経時的に分割して払うことを希望するであろう。そのため,宇宙開発運用サイドと宇宙医学実験参加企業の間でキャッシュフローのミスマッチが生じる。このミスマッチを解消する手段として,SPC(特別目的会社)を利用したファンディング手法について提案する。
 まず,SPCを発行体とした実験参加企業の参加費支払い債権を裏付けにした債券を組成し,投資家が購入する。SPCは,期初に,投資家から払い込まれた投資元本を宇宙開発運用サイドに支払い,参加企業の参加費支払い債権を購入する。償還日に向けて期中では,その実験参加企業から,実験参加費の支払いを,経時的に,SPCが一旦受け取り,そのまま投資家に支払い,SPC債の割賦償還とする。このSPC債に投資する投資家は,宇宙開発運用サイドの信用リスクと事業遂行リスク,そして実験参加企業の信用リスクを取ることになるため,宇宙開発運用サイドの財務内容と事業内容,実験参加企業の財務内容,宇宙医学実験の契約内容といった情報を開示する姿勢が必要になってくるであろう。
【結語】 今後,宇宙産業の焦点は月開発さらに火星開発にむけ加速されていく,その中では多くの労働者も参加する。宇宙医学的観点から宇宙環境特有の生態生理の研究・解明には膨大な資金運用が必要となる。今回我々が提案する方法が今後の宇宙医学研究の推進の一躍を担うことができれば,宇宙医学研究の起爆剤となりえる。