宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 1, 22, 2022

一般演題 1

1. 国際空港における勤務者向け新型コロナウイルスPCR検査体制の確立

神田 正樹1,2,5,楯 和馬1,2,5,竹口 優三2,5,田中 奏多3,三宅 将生4,5,挾間 章博5

1福島県立医科大学・医学部・医学科
2株式会社エフメディカルエクイップメント
3羽田空港検査クリニック
4一般社団法人 DnP
5福島県立医科大学・医学部・細胞統合生理学講座

Establishment of PCR testing system for novel coronaviruses for workers at International Airports

Naoki Kanda1,2,5, Kazma Tate1,2,5, Yuzo Takeguchi2,5, Kanata Tanaka3, Masao Miyake4,5, Akihiro Hazama5

1Fukushima Medical University School of Medicine
2F Medical Equipment Inc.
3Haneda Airport Test And Travel Clinic
4General Incorporated Association DnP
5Department of Cellular and Integrative Physiology, Fukushima Medical University School of Medicine

【背景】 2019年から新型コロナウイルスが全世界で流行しており,世界だけでなく,本邦でも感染状況が拡大し,国内におけるPCR検査の必要性が増加した。国際空港における迅速なPCR検査の実施は,国内の感染拡大抑制だけでなく,国外からの変異株流入検出など,公衆衛生上重要な役割を果たしている。
 【方法】 2021年1月,国際空港における航空会社オペレーションセンターの一室にPCR検査設備を設置した。検査対象者は,主に国際線航空業務後,本邦に帰国した運行乗務員と客室乗務員であった。検体採取前にWEB上で問診票に必要事項を入力し,体調不良があるかどうかを事前に確認した。検体は唾液とし,検査キットに含まれる不活化液と混合後,唾液管の蓋上部に貼り付けたQRコードで検体管理を行った。検出法はRealtime RT-PCR法を用い,結果をメールで通知した。検査施設設置後も,検査体制を継続的に改善した。
 【結果】 一日のフライト数と検査対象者数を予め整理し,到着予定時刻(ETA)を元に検体提出時刻を逆算して推定した。これによって検体持込から検査までの一連のフローを確立させ,検体持込後約60分で結果通知までを行う体制を整えた。検査の所要時間は,正規分布に近かった。2021年5月時点で検体持込から結果通知までの時間は,95±12分(mean±SD,最短42分,最長215分,n=1,321)であった。また,ATAから結果通知までは,160±22分(最短79分,最長287分,n=1,149)であった。
 その後の改善によって,2021年9月には検体持込から結果通知までの時間は46±10分と,49分間短縮されて半分以下となり,ATAから結果通知までの時間も107±20分へと53分間短縮できた。
 要素分析をしたところ,「導線のブラッシュアップ」による検体持込からの所要時間に対する短縮効果は14分,「新設備導入」による効果は23分,「新設備導入後の実験プロトコールの最適化」は10分であった。また,ATAからの所要時間に対しては,それぞれ13分,28分,10分の短縮であった。すなわち,検体受入後の検査体制の充実と最適化が時間短縮に主な役割を果たしたことが明らかになった。
 【考察】 国際的にも物流が滞る中でのラボ環境構築と動線の確立は容易ではなかった。PCR検査は検査開始後,一定時間機器を占有するため,と?のタイミンク?て?検査を開始するのかの判断が全体最適化のポイントとなっている。そのため,天候等を含めた運航情報のアッフ?テ?ートを検査体制にと?う反映させるのか,といった対応や動線のフ?ラッシュアッフ?が継続的に必要だと思われる。今後は高速化された検査試薬や機器開発をすることで,さらなる検査時間の短縮が実現したい。最新設備や検査員などの投入するリソースと検査時間のベストな着地点はどこか,といった議論が今後も必要となると考えられる。