宇宙航空環境医学 Vol. 59, No. 1, 18, 2022

シンポジウム 4

航空会社における新型コロナウイルス感染症対策

航空機の空調システム

鑰山 統

株式会社 JALエンジニアリング 技術部システム技術室機装技術グループ

Air Conditioning System equipped on the Airplane

Osamu Kagiyama

Aircraft System Group, Engineering Department, JAL Engineering Co., Ltd.

空気の薄い高高度を飛行する航空機の機内において,乗客・乗員が安全かつ快適に機内で過ごすために,航空機の空調システムは主に温度調整・与圧調整を目的として装備されているが,その空調システムが飛沫・空気感染防止に効果があると言える。その理由としては3つある。
 1つ目の理由としては,客室内の空気は「機体前後方向の流れの少ない上から下への流れ」となっていることである。一般的な航空機においては,ジェットエンジンの圧縮機から高圧空気の一部を取り出し,取り出された空気は空調システムにて温度・圧力および流量を調整し客室内に送り込まれる。その際,空調システムを出た空気は,客室内の壁裏のダクトを通り天井裏に送られ,天井付近に設けられた送風口から客室内に供給される。客室内を流れた空気は客室内の横の壁の下側に設けられた排出口を通り床下に流れ,床下に流れた空気のおよそ半分が胴体下部にある圧力調整バルブから機外に排出される。機内に残った空気は高性能空気フィルタにて濾過された後,空調システムを出た空気と混ぜられ,再度客室内に循環される。また,航空機はできる限り,どの胴体断面を切っても均一な空気の流れとなるように設計されており,客室内の区画ごとの温度調整が可能となるよう各区画の空気流量のバランスが調整され,機体の前後方向での流れが発生しにくいようになっている。
  2つ目の理由としては,
 空調システムを通して航空機内へは「新鮮な空気が常に大量に供給され頻繁に入れ替わっている」ことである。航空機における空気の供給に関する法的要件としては,本邦の耐空性審査要領,および米国の連邦航空法に「通常の飛行状態において,少なくとも一人当たり,毎分0.25kg以上の空気を供給するように設計しなければならない。」と定められており,この基準に準拠して各航空機は製造されている。巡行中のボーイング787型機の客室内気圧(約0.8気圧)における容積に換算すると,一人当たり毎分250L以上の空気が供給されていることになり,機体の容積をふまえるとおおむね2〜3分で空気が入れ替わっていると言える。また,客室内を流れた空気の一部は高性能空気フィルタにて濾過され,再度客室内に供給されているため,客室内の空気の淀み・滞留を減らし,空気の入れ替えを促進している。
 3つ目の理由としては,「高性能空気フィルタによって空気の濾過がされている」ことである。既述のとおり,客室内から排出された空気の一部は高性能空気フィルタにて空気の濾過がされた後,客室内に再循環されており,当該高性能空気フィルタは0.3μmサイズの粒子の99.97%以上を捕集する性能を有している。高性能フィルタにおける繊維の隙間は数十μmであり,飛沫・細菌・ウイルスと比較すると大きいものである。しかし,気流中の粒子が繊維間を流れる過程で繊維表面に接触し捕集される“さえぎり効果”,気流中の粒子が自らの慣性によって流れを外れ繊維に接触し捕集される“慣性効果”,気流中の粒子のブラウン運動により繊維に接触し捕集される“拡散効果”に加え重力や静電気による複合的な効果が,フィルタの隙間より小さい粒子の高い捕集率を可能としている。
上記3つ理由により航空機の空調システムが,ウイルスの飛沫・空気感染の防止に役立っていると言える。